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アメリカの大統領レーガンとイギリスの首相サッチャーの減税政策について



はじめに

1980年代、アメリカ合衆国の大統領ロナルド・レーガンとイギリスの首相マーガレット・サッチャーは、それぞれの国で大規模な経済改革を実施しました。これらの改革の中心には減税政策がありました。レーガンとサッチャーの減税政策は、どのような背景と目的で行われ、どのような影響を及ぼしたのでしょうか。本記事では、レーガンとサッチャーの減税政策の詳細、背景、影響、そしてその評価について詳述します。

1. ロナルド・レーガンの減税政策

1.1 背景と目的

1980年代初頭、アメリカは経済停滞とインフレーション(スタグフレーション)に直面していました。これに対する処方箋として、レーガンは供給側経済学(サプライサイド経済学)に基づく減税政策を掲げました。供給側経済学は、減税によって個人や企業の投資意欲を喚起し、経済成長を促進することを目指します。

レーガンはその背景をこう語っています。「私たちの目標は、政府の力を制限し、個人の自由と経済の活力を取り戻すことです。」(ロナルド・レーガン、1981年)

1.2 政策の内容

レーガンの減税政策の中核は、1981年の「経済回復税法(ERTA)」でした。この法律により、以下のような主要な税制改正が行われました。

  • 個人所得税の引き下げ:個人所得税の最高税率を70%から50%に引き下げ、さらに1986年には28%まで引き下げられました。

  • 法人税の引き下げ:法人税の引き下げと、投資税控除の導入。

  • 減価償却制度の改定:資本投資の減価償却を加速させる制度改革。

レーガンはその成果をこう評価しました。「私たちの政策は、アメリカの経済を再び活性化させ、成長と繁栄の新しい時代をもたらしました。」(ロナルド・レーガン、1988年)

1.3 経済への影響

レーガンの減税政策は、短期的には景気刺激効果をもたらし、1980年代後半には経済成長が加速しました。しかし、一方で財政赤字が拡大し、政府債務も増加しました。供給側経済学の理論によれば、減税による経済成長が税収増加をもたらし、最終的に財政赤字を相殺するはずでしたが、実際には税収の増加は予想を下回りました。

2. マーガレット・サッチャーの減税政策

2.1 背景と目的

サッチャーが首相に就任した1979年、イギリス経済は高い失業率と低成長率に苦しんでいました。サッチャーは市場原理に基づく自由主義経済改革を推進し、その一環として減税政策を実施しました。彼女の目標は、企業の競争力を強化し、経済全体の効率を向上させることでした。

サッチャーはその背景をこう説明しています。「私たちの目標は、政府の役割を縮小し、市場の自由を最大化することです。これにより、個人と企業が自らの力で繁栄する機会を得ることができます。」(マーガレット・サッチャー、1979年)

2.2 政策の内容

サッチャーの減税政策は、以下のような具体的な施策から成り立っていました。

  • 所得税の引き下げ:所得税の最高税率を83%から60%、後に40%に引き下げました。

  • 法人税の引き下げ:法人税を52%から35%に引き下げ、企業の投資意欲を高めました。

  • 付加価値税(VAT)の導入:所得税減税の一部を相殺するために、付加価値税を導入しました。

サッチャーはその成果をこう評価しました。「私たちの政策は、イギリスの経済を再び成長軌道に乗せ、企業の競争力を強化しました。」(マーガレット・サッチャー、1989年)

2.3 経済への影響

サッチャーの減税政策は、短期的には景気後退を引き起こしましたが、1980年代後半には経済成長を回復させました。彼女の改革により、イギリス経済は競争力を取り戻し、失業率も低下しました。しかし、一方で社会的不平等が拡大し、貧困層の苦境が深刻化しました。

3. レーガンとサッチャーの減税政策の比較

レーガンとサッチャーの減税政策には多くの共通点がありましたが、いくつかの重要な違いもありました。

3.1 共通点

  • 市場主義経済の推進:両者とも市場の自由を重視し、政府の介入を最小限にすることを目指しました。

  • 供給側経済学の採用:減税を通じて経済成長を促進するという供給側経済学の原則に基づいていました。

  • 減税の幅広い実施:個人所得税と法人税の大幅な引き下げを行いました。

3.2 相違点

  • 財政赤字への対応:レーガンは財政赤字の拡大を許容した一方で、サッチャーは財政赤字の削減を重視し、公共支出の抑制にも取り組みました。

  • 社会政策への影響:サッチャーは減税と並行して公共サービスの削減を行い、福祉国家の縮小を図りましたが、レーガンは福祉支出の削減には比較的慎重でした。

4. 減税政策の評価と教訓

4.1 成功と失敗

レーガンとサッチャーの減税政策は、短期的には経済成長を促進し、企業の競争力を高める効果がありました。しかし、長期的には財政赤字の拡大や社会的不平等の増大といった課題も浮き彫りになりました。

レーガンはこう振り返ります。「私たちの政策は、多くの成功を収めましたが、同時に財政赤字という課題も残しました。」(ロナルド・レーガン、1989年)

サッチャーはこう総括します。「私たちの改革は、イギリス経済を再び強固なものにしましたが、社会的不平等という新たな課題も生み出しました。」(マーガレット・サッチャー、1993年)

4.2 教訓

  • 財政の持続可能性:減税政策を実施する際には、財政の持続可能性を考慮することが重要です。過度な減税は財政赤字を拡大させるリスクがあります。

  • 社会的影響:減税政策が社会に与える影響を慎重に評価し、必要な補完策を講じることが求められます。

  • 経済の多角的なアプローチ:減税のみではなく、規制緩和や投資促進策など、多角的なアプローチが経済成長には不可欠です。

結論

ロナルド・レーガンとマーガレット・サッチャーの減税政策は、1980年代の経済改革において重要な役割を果たしました。両者の政策は、短期的な経済成長を実現する一方で、長期的には財政赤字や社会的不平等

といった課題も生じました。これらの教訓を踏まえ、現代の経済政策においてもバランスの取れたアプローチが求められます。

参考文献

  1. Barro, R. J. (1991). Economic Growth in a Cross Section of Countries. Quarterly Journal of Economics, 106(2), 407-443.

  2. Feldstein, M. (1986). Supply-Side Economics: Old Truths and New Claims. American Economic Review, 76(2), 26-30.

  3. Harvey, D. (2005). A Brief History of Neoliberalism. Oxford University Press.

  4. Holmes, M. (1989). Thatcherism: Scope and Limits. Macmillan Education.

  5. Reagan, R. (1990). An American Life. Simon & Schuster.

  6. Thatcher, M. (1993). The Downing Street Years. HarperCollins.

  7. Welch, W. P. (1985). The Political Feasibility of Full Taxation. Public Choice, 46(3), 227-239.


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