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「効果的なコーチングの神経科学」

ATDにて受講したセッションを掘り下げて紹介、考察していきます!

ケネス・M・ノワック博士による「効果的なコーチングの神経科学」を受講しました。
ケネス・M・ノワック博士は360度フィードバック、評価、健康心理学、行動医学の分野で広く出版しています。ケンはAPAジャーナル「Consulting Psychology Journal」の編集者を務め、アメリカ心理学会(コンサルティング心理学会)のフェローでもあります。

脳とコーチングの関係

  • エグゼクティブコーチングが適切に行われれば、臨床療法と同等の効果があることが示されている。

  • コーチングにおいて重要な要素として、健康な関係性、デジタルコーチングやAIの影響、個々のクライアントの特性などが挙げられる。
    例えば、マッケナ・デイビスのモデルでは、コーチングの成功に寄与する要素の約70%がコーチの特性やラポール(信頼関係)に関連しているとされている。

  • 信頼関係があると、クライアントとの関係が強化され、脳の特定の部分が活性化される

  • 脳レベルでのコーチングアライアンス(信頼関係)は非常に重要である。良い関係は効果や成果のための必要条件だが、十分条件ではない。

  • 脳は300,000年かけて痛みを避け、快楽を求めるように進化してきた。

  • インターパーソナルなストレス(対人コミュニケーションによるストレス)はコルチゾールの分泌を引き起こし、回復に時間がかかる。

  • 目標の設定、実行、成功する習慣変化の動機付けには、二つの神経脳ネットワーク(デフォルトモードとタスクポジティブ)が関与している。

    • デフォルトモードネットワーク(車のエンジンのスイッチは入っているが走っていない時の状態のように、ぼんやりした状態の脳が行なっている神経活動)は、日常的な思考や自己反省に関与している。

    • タスクポジティブネットワーク(デフォルトモードネットワークと対立する概念で、はっきりとした目的に向かって行動している時、連動して活性化している脳の部分)は、問題解決や意思決定に関与している。

    • ノンディレクティブコーチング(※)がデフォルトモードネットワークを活性化させることが示されている。

ノンディレクティブコーチングとは、コーチがクライアントに対して具体的な指示やアドバイスを与えず、クライアント自身が自分の答えを見つけ出すように促すコーチング手法です。このアプローチでは、コーチは主に以下の役割を果たします:

積極的な傾聴:クライアントの話を注意深く聞き、彼らの感情や考えを理解し、共感します。
オープンな質問:クライアントに対して考えを深めるような質問を投げかけ、自分自身で解決策を見つける手助けをします。
自己発見の促進:クライアントが自己理解を深め、自らの強みや課題に気づくようにサポートします。
判断を控える:クライアントの意見や考えに対して評価や批判をせず、受容的な態度を保ちます。

ノンディレクティブコーチングは、クライアントが自己決定感を持ち、自分自身の目標や解決策に責任を持つことを奨励します。これにより、クライアントはより持続可能な行動変容を達成しやすくなります。

「ノンディレクティブコーチングとは」
  • 神経科学的には、行動を変えるには平均45~90日かかる。

  • 神経科学的には、複雑な人間行動の自動化には長期間の練習が必要である。

  • 炎症反応を引き起こす行動の継続は避けるべきである。

  • 新しい行動を身につけるためには、使用し続けることが重要である。行動変容のためのSMARTゴールではなく、IF-THENゴールを使用する。

IF-THENゴールとは

IF-THENゴールとは、特定の状況(IF条件)が発生した場合に特定の行動(THEN行動)を取ることを事前に計画する方法です。
これは行動科学や心理学で「実行意図(implementation intentions)」と呼ばれることもあります。この方法は、目標達成や行動変容を促進するために非常に効果的であるとされています。

IF-THENゴールの特徴は以下の通りです:

  1. 具体的なトリガー:行動を開始するための明確で具体的な条件を設定します(IF部分)。

  2. 明確な行動:その条件が満たされた場合に取るべき具体的な行動を定義します(THEN部分)。


IF: 毎朝6時になったら
THEN: 30分間ジョギングする

効果

  • 行動の自動化:特定の条件に対して自動的に行動を取ることで、意思決定の負担を軽減し、行動の実行率を高める。

  • モチベーションの維持:具体的な計画を立てることで、行動を取る際の迷いや抵抗を減少させる。

  • 目標達成のサポート:目標に向かって計画的に行動するためのフレームワークを提供し、目標達成の可能性を高める。

IF-THENゴールは、SMARTゴール(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)と組み合わせることで、さらに効果的に目標達成を支援することができます。

AIとデジタルコーチングの未来

AIとデジタルコーチングの未来について考えると、現在の研究では、人間のコーチングと同等の成果を上げることが示されていますが、共感やストレスの変化には影響を与えないことが多いそうです。
具体的には、エンパシー(共感)や信頼感は依然として人間のコーチに軍配が上がることが多いです。これに対して、AIと人間のコーチングの効果を比較する研究も進行中であり、今後の発展が期待されます。

アクセプタンス&コミットメントセラピー

ステファン・ヘイズの研究では、認知行動療法の新しいアプローチである「アクセプタンス&コミットメントセラピー」が、個人の状況に応じて非常に効果的であることが示されています。

ACTは、従来の認知行動療法(CBT)と異なり、思考や感情を変えることよりも、それらを受け入れ、それに基づいて価値観に沿った行動を取ることを重視します。

  • AIやチャットボットが登場する現在、これがどのように影響するかを考える必要がある。スティーブン・ヘイズの行動療法(ACT/アクセプタンス&コミットメントセラピー)は、現在の瞬間を受け入れ、感情を変えるのではなく受け入れることが効果的であることを示唆している。

  • コーチングは心理的柔軟性に基づいており、クライアントが自分の強みを理解し、改善点に集中し、変化を考慮することが重要である。

  • クライアントに洞察を与え、自己認識を高め、行動を変える動機を与えることが重要である。研究によると、多くの人は自分のスキルを正確に評価できないため、コーチが洞察を与える役割が重要である。性格の評価はスキルの評価よりも正確であるが、それでも自己評価だけでなく他者からの評価を組み合わせることが重要である。

ACTの例
不安やストレスを感じたとき、それを避けたり抑え込むのではなく、「今、自分は不安を感じている」と認識し、その感情をそのまま受け入れる。

ACTの目標
ACTの主な目標は、心理的柔軟性を高めることです。
心理的柔軟性とは、困難な思考や感情に対処しながら、自分の価値観に沿った行動を取る能力を指します。
これにより、クライアントはストレスや不安に対処しながら、充実した生活を送ることが可能になります。

考察

ノワック博士のセッションは、コーチングにおける神経科学の重要性を理解する上で非常に有益でした!
わざわざクライアントに説明せずとも、科学的な根拠に基づいたアプローチを取ることで、身体だけではなく頭でコーチングを実践することができます!(一般的には頭→身体の順ですが、コーチングは五感をフルで使います)

例えば、信頼関係(意図的な協働関係)作りは導入セッションにて必ずや必要です。しかし、信頼関係作りがなぜ重要であるかを科学的に説明できる人は少ないと思います。
本文にも記載しましたように、信頼関係を作ることで、脳の「特定の部分」が活性化されます。

ちなみに、ここでは敢えて「特定の部分」と記載していますが、具体的には下記のような部位が該当します。

前頭前野(Prefrontal Cortex)
前頭前野は、意思決定、計画、社会的行動の制御に関与しており、信頼関係が築かれると、ここが活性化されることがあります。これは、クライアントがコーチと安全で信頼できる関係を築くことで、よりオープンに考え、自分の行動を見直す準備が整うためです。

島皮質(Insular Cortex)
島皮質は、感情の認識や共感に関与しており、ラポールが築かれるとこの部位が活性化されることがあります。クライアントがコーチとの関係で感情的に安心感を感じることで、共感や自己認識が高まります。

扁桃体(Amygdala)
扁桃体は、感情の処理、特に恐怖や不安に関与しています。信頼関係が築かれると、扁桃体の活動が抑制されることがあります。これは、クライアントがコーチとの関係で安全と感じることで、恐怖や不安が軽減されるためです。

ここまで細部の内容を頭に入れておくのはマニアックすぎるので、神経科学の専門家以外はざっくりな理解でいいと思うのです。
それでも、神経科学の基礎知識があるだけで、コーチングの引き出しが増えるのは間違いないので、私自身インプットを進めていこうと思います!

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