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妻を亡くしてから、自分にはもったいない女性だと気がついた

<バーアテンダント18>

「心の小さい男を演じてほしい」

主演のジャック・ニコルソンが、監督から言われた。
退職後の男の辛口ドラマ「about Schmidt(シュミットについて)2002」。
ゴールデン・グラブ賞の主演男優賞(ジャック・ニコルソン)、最優秀脚本賞受賞

©︎themoviedb.org

「隣で寝ているこの婆さんは、誰だ」
夜中に寝ぼけた66歳のシュミットが、まじまじと妻の顔をのぞきこんで、
つぶやいた。

©︎blogspot.com

そんなシュミットが、定年退社をむかえた。
保険会社の部長代理を務め上げ、お別れパーティがある。

退職日のシュミット©︎the austin chronicle

「若い連中に仕事を奪われる気分はどうだ」と、ズバリ切り込む同僚もいた。
こういう自称”あんたの親友”の遠慮ない一言が、心を折ることがある。

「要は、会社で何をしたか、人生で何を残すかがポイントだ」と上から目線の
挨拶を締めた。

シュミットは、いたたまれず、会場の隣のバーに行って、ギムレットをオーダー
した。ため息とともに、飲み込んだ。


退職後の一日一日は、重い。家の仕事部屋で、ぼんやりテレビを見ている。

”1ヶ月わずか22ドルで、タンザニアの孤児の養父になれる”というCMが流れていた。同僚の「人生で何を残すか」という言葉が、シュミットの背中を押していた。

暇だ。「仕事を引き継いだ若手が質問があるというので、教えに行ってくる」と
妻に告げて家を出る。会社に着いて「どうだ、たくさん質問があるだろう」と
尋ねると「いま忙しいので、質問はそのうち」とそっけなく追い返される。
会社のゴミ置き場をふと見たら、自分の生涯の仕事ファイルが段ボール箱ごと
棄てられていた。

帰宅すると、妻が脳出血で死亡していた。

2週間後に結婚式を控えた娘と婚約者が駆けつける。
葬儀の後、安っぽい棺桶にしたことを、娘に責められた。
「もっと安いのがあったが、2番目に安いのにした」と苦しい言い訳する。

シュミットは、婚約者とは初対面。ウオーター・ベッドのセールスマンだそうだ。こんなときになんですがと、「1年で投資額の20〜30%の利息が手に入る」と
ネズミ講を勧めるとても怪しい男だった。

怪しい娘の婚約者©︎IMDb

シュミットは、もっといい奴がいると、娘に反対した。
娘は、母親と結婚式の準備について、毎日のように電話で話し合ったと言う。

知らないのは、シュミットだけだった。

妻の遺品を整理、シュミットの親友と浮気していたラブレターを、見つけた。
妻の洋服など、古着寄付の小屋にぶん投げて帰る。ついでに、親友宅に押しかけ、「キスだけだった」と言う彼をぶん殴った。

シュミット家には、動くリビングルームがある。
シュミットが反対した馬鹿でかいモーターホームだ。

アメリカ中を旅しようと、妻は思っていのだろう。誰がドライブするんだ。
シュミットは反対し、まだ半金しか払っていない。

モーターホームとシュミット©︎moviesrankings.com

そうだ、これで、娘の結婚式に行こうと、シュミットは思った。

夕方、駐車場で停車していたら、夫婦が、彼らのキャンピングカーに招待してくれた。ビールが切れたので、夫が外に買いに出た。彼の妻との話が盛り上がった。

「私、他人のことが分かるの。あなたを支配している今の感情は、怒りと、恐れと、孤独だ、と思う」。

なんということだ、42年間一緒に過ごした妻もわからないだろう退職後の
自分の心を、彼女がずばり見抜いた。

思わず、聖母マリアの胸に顔を埋めてしまった。彼女は戸惑いながら受け止めた。しかし、そこで終わらなかった。シュミットは、聖母にキスをした。

「なに考えているのよ」人妻は、飛び上がって、彼をキャンピングカーからたたき出した。「キスだけだ」妻と浮気したあの男も同じことを言っていたと思った。


予定より早く娘の結婚式に着いたので、ネズミ講男の実家に泊まることにした。
彼のセールス物件のウオーター・ベッドで寝心地の悪い夜を過ごした。おかげで、朝起きると首を捻挫していた。

歓待してくれたネズミ男の母(キャッシー・ベイツ)が、シュミットをジャグジーに入れて介抱してくれた。

シュミットは、あきらめない。ネズミ男の母にも、結婚反対の意思を伝えた。
「あなたにはわからないと思うけど、お嬢さんはセックスに積極的で、二人は性的にマッチしているの。セックスの相性は大切よ。私の離婚の原因だから、よく分かるの」とネズミの母は、熱く語った。

そして「両家は大きな家族になるのよ」と言って、ジャグジーに入ってきた。
ネズミの母の手が伸びてきた。シュミットは浴槽から飛び出した。

©︎fanpop.com

翌日の結婚式では、あきらめきれない花嫁の父の挨拶は、滑りまくった。
あわれに思った出席者が拍手し、挨拶を終わらせた。

なんの成果もない旅だった。俺は、こんな男だ。妻はとっくに失望していたのに、やさしいから何も言わなかったのかもしれない。

妻を彼女のドリームカーに乗せて、娘の結婚式に連れて行ってやりたかったと、
シュミットは思った。

このモーターホームは、シュミットのこれからのひとりぼっちの生活への、妻からの贈り物だったのかもしれない。

シュミットが、ぐったりして帰宅すると、アフリカから手紙が来ていた。タンザニアの孤児の世話をしている修道女からだった「養父になっていただき感謝しています。今までいただいたあなたの手紙は、すべて読み聞かせています。少年が、あなたへのお礼に絵を描きました」

©︎TV Tropes

少年が描いたアフリカの空は青かった。シュミットは、小学生のころ、
初めてほめられた時のことを思い出した。なぜか涙があふれてきた。
妻は、きっと涙の意味はわからないだろう。
でも、一緒に泣いてくれたかもしれないと思った。


<at the bar>

送別会でシュミットが求めたギムレット©︎pinterest

・映画の製作スタッフは、撮影終了後、映画に登場したタンザニア孤児の救済組織に奨学金基金を寄付した。




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