秘密はザリガニの鳴くところにある
<ムービージュークボックス25>
湿原で生まれ育った少女だった動物学者の手になる小説で、New York Times紙の2019年ベストセラーに選ばれた。
生き物が命をつなぐために、捕食者との戦いもあるのが自然界。そんな摂理を説いた映画「ザリガニの鳴くところ(Where the Crawdads Sing2022)」
(著者の母親が「危険を察知したら、ザリガニの鳴く(遠い)ところに逃げなさい」と娘に言い聞かせていた言葉を、タイトルに引用した)
湿原の家族は、アル中の夫のDVに耐えきれず、一家離散。しかし、7才の末娘の
カイアだけは、みんなの手足まどいになるので、家に放置された。
その日から、カイアは、ムール貝を河口で採取し、近くの雑貨屋で買い取ってもらい、とうもろこしの粉を食べて、生き延びた。
小学校に一度行ったら、みんなに臭いといじめられ、登校をやめた。昼間は、湿原の生き物を模写して過ごした。
湿原に2人の男が現れる。
1人目は、岸辺の生物に興味を持っていた高校生テイト。
少し年上で、カイアに読み書きを教え、彼女は、テイトに湿原の生物について
教えた。
沼は「死」、湿原は「生」。あらゆる生物の活動の場であり、家族に捨てられた
彼女をもてなしてくれる唯一の世界であり、カイアは饒舌になった。
”狼少女に男友達ができた”と、小さな町の噂になったが、テイトは気にしなかった。カイアは、ずっとこの時間が続いてほしいと願った。
しかし、テイトは、湿原で自然観察を続けるより、大学で生物学を学ぶことを
選んだ。テイトは、独立記念の休みには必ず帰ってくると約束して、カイアから
離れた。
カイアは、その日ちゃんと化粧して、朝から砂浜でテイトを待った。
花火が上がる遠い夜空を見ながら、彼女は彼が戻ってこないことを知った。
カイアは、彼女のすべてが、否定されたように感じた。
カイアのぽっかり空いた心のすき間に、もう1人の男、チェイスが入り込んだ。
夏の湿原の砂浜に遊びに来て、街にはいないタイプの彼女に一目惚れした。
婚約者がいることを隠して、カイアを自分のものにしようと強引に接近した。
地元企業の社長の息子で「俺と一緒になれば社長夫人だ」と口説くが、人見知りで湿原を離れたくないカイアにとっては、何の意味もなかった。しかも、街で、彼の婚約者とばったり出会い、だまされていたことがわかった。思わず「殺してやる」と叫んでいた。
最初の男テイトは、彼女を裏切ったが、湿原より学問の道を選んだという、まだ許せる理由があった。しかし、嘘をついたチェイスには、許せるところが何もなかった。
最後には、浜辺で強姦してカイアを力づくで従わせようとした。カイアは、正当防衛で殺すこともできた。
翌日、彼女が描いていた湿原の生物図鑑が出版されることになり、街の出版社にバスで出かけた。その夜、チェイスを湿原の消防鉄塔におびき寄せ、突き落とした。そして、カイアは、深夜バスで街へ戻った。
湿地帯の潮の満ち引きが、殺人の証拠をきれいに洗い流すことを、カイアは
知っていた。
死亡時不在というアリバイがあったが、チェイスと喧嘩していた女友達として、
容疑者にされた。
弁護士は「不在アリバイはあるし、証拠がないにも関わらず、容疑者に仕立てられている。私も街の住人として、”湿原の女”ならやりかねないという刷り込みがあるが、その偏見を捨てて陪審員は審議していただきたい」と述べ、殺人者カイアの
無罪を勝ち取った。
大学院を卒業し、湿原を研究場所として戻ってきたテイトをカイアは許し、
結婚した。
湿原に潮が満ちるように、カイアは、不幸な少女時代を取り戻した。
そして、3冊の著作を残して、彼女は先立った。
著作ノートの最後に「自然界では、捕食者を倒して生き物は命をつなぐこともある」と記され、チェイスの胸にあったペンダントと、彼のポートレイトが標本のように載せられていた。
カイアは、テイトには正直でいたかった。ザリガニの鳴くところから、テイトの目に触れるようにした。
テイトは、最後の頁を破り捨て、ペンダントを湿原に捨てた。
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