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裁判傍聴:窃盗 その4

窃盗(ろ)第170号等

被告は、大阪で寮に住みながら、建築の仕事をしていた。
急に嫌気がさし、何も持たず寮から飛び出し岡山に流れついた。
そのため現在は、ホームレス。

窃盗した物。
倉庫に侵入し、箱詰めされた葡萄(ぶどう)450円を摂取。
その後、自転車で逃走。
逃走中に、警察に職務質問され呆気なく捕まる。

動機は
『通りがかったら、美味しそうやなと思って』との事。

他の質問にも素直に答えるが、なんせザツ。
反省の色もたいして無く、どこか他人事のように述べる。
追起訴もあり、この日は葡萄の件で裁判は終わった。

さて、別の日。
追起訴の裁判が始まる。

追起訴の内容。
取調べ時に、警察官がリュクサックを見て『これは?』と聞いたら『盗んだ』とあっさりとゲロ。
倉庫に侵入し、作業員のリュクサックを盗んだ。
その中に、デジタルカメラ、サングラス、弁当、水筒、等々。
被害総額¥17000-
ちなみに弁当は、ちゃかりと被告の胃袋におさめたという。

本人尋問。
弁護人と被告。

弁護人
『あなたは捕まってから協力的に自供していますよね?』

被告
『おん』

弁護人
『岡山に来てから捕まるまで、何件くらい盗みに入りましたか?』

被告
『お~ん……8件くらい』

弁護人
『お金があったら盗みはしませんでしたか?』

被告
『ぜって~せん』

弁護人
『そうですよね。年金もあるので大丈夫ですよね』

被告
『おん』

弁護人
『出所後は、どえする予定ですか?』

被告
『シェルターに入ったあと、大阪に帰って生活する』

弁護人
『仕事もしますか?』

被告
『おん。また建設の仕事する』

弁護人
『では、年金と働いたお金で十分にやっていけますよね』

被告
『おん。やれる』

弁護人
『終わります』


年齢的に国民年金では無いから障害年金か?


次は、検察からの質問。

検察
『あなたは、お金があったら盗みはしないと言いましたよね』

被告
『おん。せん』

検察
『じゃあ、どおしたら盗まないよう出来ると思いますか?』

被告
『ん~……働いて金つくる』

検察
『あなたには前科がありますよね。同じ窃盗ですよね』

被告
『おん』

検察
『その時に仕事は、していましたか?』

被告
『おん。しとった』

検察
『働いてても盗んでますよね』

被告
『ありゃ~、給料日前で金がねかったんじゃ』

検察
『またお金が失くなると盗むんですか?』

被告
『もうせん』

検察
『年金と給料でやっていけますか?』

被告
『おん、やれる』

検察
『以上です』


ど~も、深く考えてなさそやな


最後に裁判官からの質問。

裁判官
『あなたは、出所後にシェルターに入るそうですが、頼れる人は居ないのですか?』

被告
『おん。おらん』

裁判官
『両親は居ないのですか?』

被告
『わし、3歳から施設に入っとるけ~知らんのじゃ』

裁判官
『そうですか。では年金と言う話が出てますが、何年金ですか?』

被告
『ん~……ん~……なんゆ~たかなぁ…………』

検察が手をあげ、被告の代わりに答える
『障害年金です』

裁判官
『そうですかぁ。あなたはどんな障害なんですか?』

被告
『ん~……知らんのじゃ』

裁判官
『病名は分かりますか?』

被告
『施設が勝手にしとるやつじゃけ~知らんのじゃ』

裁判官
『では、いつから障害年金を貰ってますか?』

被告
『それも知らんのじゃ』

検察が、また手をあげ答える
『彼が3歳の頃からです』

裁判官
『あなたは、お金を受け取っていないのですか?』

被告
『Fさんが、もらよ~たらしんじゃけど、8年分』

裁判官
『8年分!?』

検察が、またまた手をあげ答える
『彼は今まで4回の養子縁組をしていて、8年前にF家の養子に入っています』

裁判官
『あなたは今まで、F家で暮らしていたのですか?』

被告
『いや、仕事の寮におった』

裁判官
『お金は受け取ってないと?』

被告
『おん。8年分の580万円は、もう使ってないんじゃと』

裁判官の顔つきが変わり
『この話は、検察は』
速攻で話をかぶせる検察。
そして裁判官に近付き、コソコソと話しをしだす。
話終え、検察は自分の席に戻った。

裁判官
『障害の級は、何ですか?』

被告
『施設が勝手にしとるやつじゃけ~知らんのじゃ』

またもや、検察が代わりに答える
『2級16号です』

裁判官
『2級ですか!!2級と言ったら』机の上にある本を持ち出しパラパラと資料をめくる。


そりゃ、驚くわな
身体的、精神的、知能的、いずれも障害年金の2級といったら、日常生活もままならない状態であり、ましてや仕事なども維持が出来ない人が受給するものである。
でも被告は、寮に住み、建築の仕事を何年も続けていた経歴がある。


裁判官、語気つよく
『弁護士!あなたは、このとこについて何か知っていますか!』

弁護人
『いえ……』
うつむく弁護人。
いつもの流れ作業で終えるつもりが、新たな問題が浮き彫りになり、バツが悪いといった感じだ。

裁判官
『検察官!この件で動いてますか?どこまで把握してますか?』

検察官
『今現在ここで、ご報告できるまでに至っておりません』

裁判官
ますます眉間にシワをよせ
『分かりました』
そして被告の顔を見据えながら
『これからも生活していく上で、あなたを食い物にしようとするヤカラは沢山います。慎重に物事を考え、きちんとした人に相談するようにしなさい』

被告
『おん』

恐らく、全くもって分かってねぇ



施設が申請した、3歳からの障害年金は何処へ消えたのか?
そして4回目の養子縁組。
裁判で明らかになった、8年分の障害年金580万円が消えても、被告は漠然と受け入れている。
長年、言葉巧みに言いくるめられてきたが、食物にされた感覚は無いのだろう。


誰もが人を見極めれることが難しいこの世の中。
果して、この隙だらけで無知である被告は、どこまで改善できるのだろうか。
せめて、この被告を食物にした者が、いつか必ず裁かれることを願う。

話が大きく脱線したが、これは窃盗の裁判である。
判決は、懲役1年6月、執行猶予3年であったことをお伝えしておく。




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