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inquire代表・モリジュンヤさんに聞く、「これからのメディアの可能性」【後編】

こんにちは。カンバセーションズの原田です。
「カンバセーションズ」が「共創のプラットフォーム」になる方法を探るシリーズ、第一弾。
編集者・モリジュンヤさんとの対話、後編です。

前編では、モリさんが編集者になった経緯や活動テーマなどについてお話を聞いてきました。
その中で出てきたのが、プロセスの共有やコンテンツ化、リサーチャーとしての役割など、メディアが持つ価値や可能性についてのお話でした。
僕が運営するカンバセーションズも、現在はインタビューを新プロジェクトのリサーチとして活用するというアプローチを取っていますし、
プロジェクト実現に向けたプロセスを共有することによって生まれる「+α」に期待しているところがあります。

では、モリさんとの対話に戻りましょう。
リサーチやプロセスの共有という話の流れから、モリさんはメディアの先行事例をふたつ教えてくれました。

1.PFSK
「メディアを運営しながらコンサルティングのビジネスをしている会社です。
世界各地のイノベーション事例を記事として配信しながら、
それらをパッケージしてレポートをつくったり、イベントを行うことをビジネスにしています。
彼らは、"エディトリアルリサーチ"と言っているのですが、
集めている情報に文脈やニーズを当ててコンテンツ化するという行為はまさにメディア的ですよね」
2.De Correspondent
「プロセスを伝えていくという点で、以前からベンチマークにしているオランダの会員制メディアです。
このメディアでは、記者と読者がフラットな関係を築いていて、
プロセスを共有しながら、読者からのフィードバックを参考に精度の高い取材を行っています。
1年かけて調査を行いながら、読者がコンテンツに触れられるのは最終の報道記事だけというのはあまり透明性がない話ですし、
テーマを設定した上で、プロセスを共有しながら発信していくということに価値があると思っています」

まさにカンバセーションズが目指す世界観とも通ずる、とても参考になる事例です。
カンバセーションズでは、メディアと読者の関係性だけではなく、
メディア運営側と取材対象者の間においても、従来の取材する/されるにとどまらない関係性をつくりたいと思っています。
社会のさまざま事象を、特定の視点やテーマのもとで切り取り、発信していく従来のメディアの役割ではなく、
これから生まれ得る未知なるものを、メディアに関わるあらゆる人たちとのフラットな関係性の中で共創していく。
それが、カンバセーションズが目指しているこれからのメディアの形です。

ゆくゆくは企業などとも連携しながら、従来のオウンドメディアのようなファンコミュニティ形成にとどまらず、
新しい事業やプロダクトの開発をサポートすることによって、企業とメディアの関係性を一歩前に進められないかという目論見もあります。
モリさん、企業との連携ってどうでしょう?

モリ:考え方としては、企業のR&D(研究開発)に近そうですね。
ニーズはあると思いますが、企業側としては予算の使い方が少し難しそうな気もします。
メディアというのは、明確になっている事実を伝えることが基本的な役割だと考えられているので、
答えがわからないもの、それこそ「問い」を投げかけるような不確実性が高いものにどこまで投資できるかですよね。
でも、誰もが予想できるようなものよりも、
「これからどうなるだろう?」というものを共有することの方が価値はある。
そういう意味では、元WIRED編集長の若林恵さんたちがSONYとパートナーシップを組んでいるtrialog projectのように、
ブランディングに近いところでパッケージをつくることもあり得るのかもしれないですね。

企業や自治体などとの連携においては、「問い」を投げかけるだけではなく、
それをアウトプットの形にして回収するところまで一気通貫することが肝なのかなと思っています。
その中でカンバセーションズが考えていきたいのは、クリエイターとの連携です。
「問い」を立て、リサーチを重ねていくカンバセーションズのプロセスと、
抽出された課題に対し、最適なアウトプットを導き出していくクリエイターのプロセスが融合することで、
よりダイナミックな開発やものづくりができるのではないかと考えています。
そういう意味で、モリさん率いるinquireとミミクリデザインの業務提携も、聞いてみたかったトピックのひとつです。

モリ:ミミクリデザインは、ワークショップデザインという手法を用いているのですが、例えば某金属加工会社との取り組みでは、自社プロダクトを開発するにあたって有識者を招いたワークショップを行い、僕らもそこに参加しました。
『金属』『オフィス家具』『働く』などいくつかのキーワードを立て、それらの意味の捉え直した上で、
プロダクト開発に向けてさまざまな仮説の探索を行い、既存の認識の解きほぐしや意識の醸成などをしていきました。

これは、カンバセーションズが考えている方向性とかなり近いものがあると感じました。
ミミクリデザインの方たちにもぜひ詳しくお話を聞いてみたい!

一方、カンバセーションズに関わってくれる存在として、当然読者がいるわけですが、
読者に関しても、コンテンツの受け手というだけではなく、
インタビュアーが進めるプロジェクトの支援者(資金/技術/アイデアなどさまざまな面で)になってもらえることが理想です。
この辺りは、前編でも出た「メディアの価値はコミュニティ」という話にもつながりそうです。

モリ:カンバセーションズの組み合わせの面白さを伝える上で、トークイベントなどは相性が良いかなと思っています。
メディア主催のイベントは、有識者が登壇して経験を語るようなケースが多いですが、
答えが見えないひとつのテーマのもと、あれこれ議論していくカンバセーションズのような場も非常に大切だと思っていて。
カンバセーションズの取材というのは、その場に同席している人が最も濃密な情報に触れられると思うし、
その体験を共有すること自体が良質な学びの場にもなると思うんです。
読者がその場に参加すれば、インタビュアーのプロジェクトに自分も関われる可能性を感じられるかもしれないですよね。
会員限定のイベントやコンテンツをつくったりするのもいいんじゃないかと思います。

カンバセーションズを通した学びというのは、僕も前々から可能性は感じていて、
このインタビューなどもワークショップ化できたら良質な学びのコンテンツになりそうだなと考えていたりします。

…イベントシリーズ、やってみようかな。

色々と参考になるお話を聞くことができ、これからカンバセーションズが注力すべきこと、乗り越えるべき課題など色々見えてきた気がします。

…でも、人が足りない…。
基本的には僕ひとりで取材のオファー、記事構成・執筆、サイト更新などを行っているカンバセーションズですが、
今後活動を広げていこうとする時に、このリソース不足は深刻な課題です。
inquireで編集者、ライターのコミュニティづくりを実践しているモリさんに、この辺りについても聞いてみました。

モリ:編集・ライティングを担当する人と、インタビューしたい人が組んで、カンバセーションズに企画を持ち込むような形があると良いかもしれないですね。
そこに金銭的なリターンが設計できるとベストですが、編集・ライターの人にとって、抽象度が高いテーマを寄稿できるメディアというのは貴重だったりもします。
あと、カンバセーションズで行われているような対話の中から、軸となるテーマを定め、記事をまとめていけるスキルが身につけられると、
編集者・ライターにとって大きな価値になる。
こういうことは練習しようと思ってもなかなか機会がなかったりするので、
インタビュー記事を上手く書けるようになりたいという人たちを集めて、
書いてもらった記事を添削しながら人を育てていくようなことができれば、結構需要があるかもしれません。

モリさんが運営しているライティングスクール「sentence」ではないですが、
編集やライティングの練習の場として、カンバセーションズの取材を開放するという考え方もあるのかもしれません。

最後に、今日のモリさんとの対話の中から得られたカンバセーションズ「共創のプラットフォーム」化へのヒントをまとめてみました。

1.メディアが行うリサーチや、プロセスの共有・コンテンツ化は、ひとつの価値になり得る。
2.企業との連携における肝は、予算を投下しやすいパッケージをつくること。
3.「問い」を起点とした共創の場は、ワークショップやインタビューなどで実現可能。
4.カンバセーションズの「学び」の要素が、読者コミュニティの醸成や人材育成・登用のカギになる?

ざっとこんなところでしょうか。
8月上旬の酷暑の中およそ1時間半、インタビューという名の相談会に付き合ってくださったモリさん、本当にありがとうございました!


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