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真夜中のイニシエーション

今夜、彼に逢いにいくと決めた。

時計が11時を回ったのを確認して、そっと襖を開ける。息子は布団の中で静かな寝息をたてていた。今夜、夫は夜勤でいない。

数時間前の息子の嬉しそうな顔を思い出すとチリチリと胸が痛む。あの子を裏切ってまで、私は何をしようとしているのか?

しかし玄関を開けて一歩闇夜に踏み出せば、そんな葛藤は消えてしまった。はやく彼と一つになりたい。この胸の高鳴りを恋とよんでもいいだろうか?ううん、そんな綺麗なものじゃない。もっと野蛮で根源的な欲望ーー

「こんばんは」

そこには彼がいた。プラ水槽の底にじっと佇む彼の名は‥トカゲ大明神。私はうやうやしく水槽を台所へと運んだ。

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かわいい‥。ずいぶん待たせてしまったね。お腹すいたでしょ。私もー。指噛んで必死の抵抗してる。かわいい。みてこの手!かわいさしかない。

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あー胸が痛むわぁ。でもこれはイニシエーションだから。トカゲ食べた経験があるのとないのとではあった方がいいから。ごめんね。ごめんって思おうがヘラヘラしてようが美味しく頂こうが殺して庭に捨てようが君の不幸は1ミリも増減しないよね。それなのに謝って許されようとして、ほんとマジでごめんね???

コンロで天ぷら鍋を温めつつ、まな板がわりに牛乳パックを開け、暴れるトカゲ大明神を置く。左手で抑えつつ右手に持ったよく切れる包丁で頸椎をトンとやる。

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君の体から力が抜けていく。それでも尻尾は動いている。キッチンバサミでお腹をチョキチョキ。手足がぴくぴく動く。さすが!

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頭で考えているつもりになってしまいがちだけど、神経細胞は全身に広がっている。心と体、生と死に明確な区別はなく、ゆるやかに繋がって移り変わってゆくのだ。私だって1秒ごとに死に近づいている。

内臓を取り出して観察すると、腸の中に甲虫の幼虫が入っていた。そうだった。君もまた捕食者だったね。私もいつか捕食されるのだろうか。その時は君のように力一杯抵抗するんだろうな。ああ愛してる。愛してます。トカゲ大明神!!

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小麦粉をつけて揚げます。揚げたらだいたいなんでも食える。

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チキン南蛮作ったタレが残ってたので、カラッとあがった大明神をつけこんで、完成。

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いちご柄のお皿に盛り付けて、三つ葉をそえました。あげた事により手足がぷっくりして指が丸まってとってもかわいい。まるでお昼寝してるみたい、ね。

ああ、トカゲ大明神、君と私はついにひとつに統合される。そうこれはイニシエーション。生命の進化の幾多の分岐をたどり遡れば何億年か昔に君と私は共通の祖先をもつのだろう。ようこそおかえり。我が神、我がグリコーゲンよ!いずれ代謝されてしまうとしても、今この時の邂逅を寿ごうではないか!!

ハイ、じゃあそういうわけで、頭からいただきまーす。頭蓋骨を噛み割るときのパキッという独特の歯応え。そして驚いた事に南蛮酢にも負けない独特の強い旨味がある。これは塩でもよかったかもしれない!えっ普通に美味しい。ビールほしいですねー。

現場からは以上です。


↓トカゲ大明神との出会いを書いた記事です。ワニとカニのマネをしてバズろうとしたら盛大に滑りました!なぜなのか!?



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