「最近の若い子の間では何が流行っているの?」という愚問

多分この文章を開いてくれた人は若者で、タイトルのような質問に辟易してるんじゃないだろか。

私は今年で24歳になる。多分世間的に見ればまだ若者のカテゴリーに入れてもらえている側のはず。たぶん。

バイト先の店長に、職場の上司に、バーにいた他の客に、ありとあらゆる年上のオトナに、会話がふつっと途切れるたびに、「そういえば今若者の間では何が流行ってるの」と、聞かれてきた。

そのフェーズが来るたびに私は困ってしまって、苦し紛れにこう呟くしかない。「さあ、何が流行ってるんでしょうね…………」

するとオトナたちは一様に気まずそうな表情を見せて、その後その話題は無かったことになるか、「ティックトック……とか流行ってんでしょ?」と、またも返答に困る質問を投げかけられるかのどっちかだ。

逆に教えてほしい。

最近の若い子の間では一体何が流行ってるの?

そもそも今までどれだけ年齢をさかのぼってみても自分が「最近の若い子」だな〜、「流行りの最先端だな〜」って思っていた時代がないのだ。

だいたいこういう場合って流行ってる「コンテンツ」を聞かれてる。
今年はマーメイドスカートがやたら流行ってるとか、CANMAKEのジェルライナーの新色はカーキだ、とか、新しい味のからあげクンが相変わらずおいしい、とか、そういうのなら私にもわかる。

けど、たぶん、聞かれてるのってコンテンツだよね。

最近の若い子の間で、流行ってるコンテンツってなんだって話なんだよね。

ティックトックはインストールした事がない。インフルエンサーも心当たり無し。

YouTubeではゆっくりゲーム実況が一番落ち着くし、韓流ブームには第一次から現在に至るまで結局一度も乗れなかった。

ニジューの子たちは日本語が超絶うまい韓国人だと思っていたし、最後にちゃんと見たドラマはタイガー&ドラゴンのお正月スペシャル。
好きなバンドは15の頃から筋肉少女帯で、好きな小説家は渡辺淳一。心のマンガはあとにも先にもドラえもんである。

原因はおそらく育ちの問題だ。

母は、
プリキュアや仮面ライダーはワンクールで廃れる「諸行無常の連中」であり、本当に価値のあるコンテンツは長い間多くの人に愛されるはずである、という思想の持ち主であった。母とはすなわち家計であり財布であり、私達(年の近い弟がひとりいる)に降ってくるコンテンツの採択権者だ。

「ぱいちゃん、プリキュアなんとかのきせかえセット持ってないの?」

幼稚園の友達に聞かれた私はそれはもう母の教えに忠実に、

「持ってない。プリキュアはしょぎょうむじょうだから」

と答え嫌われていたらしい。さぞ嫌なやつだったろう。消さりたい過去すぎる。

母の諸行無常検閲(中でも厳しい弾圧対象は恋愛モノとクレヨンしんちゃんだった。諸行無常とは関係ない気もする)は小学校を卒業するまで続き、
この時点で既に流行には著しく疎い(きもい)子どもが出来上がっていた。

しかしまあ子どもっつーのは以外に順応性が高く、クラスのみんなが話してる「ちゃお」の「めちゃモテ委員長」の話はよくわからないが、自宅にあった「ダンシング・ジェネレーション(文庫版)」と同じようなものだと捉え話を合わせながら元気にやっていた。

おそらくこれ読んでる方はご存知ないだろうから調べてみてほしい。80年代別冊マーガレットの名作である。
なお続編もあったということを私も今日知った。
めちゃモテ委員長とは残念ながら似ても似つかないスポ根ロマンス漫画である。気合があればなんでも乗り切れる。

実家の本棚にはダンシングジェネレーションの他にも森瑤子の短編集や林真理子のエッセイ、小室哲哉やTOTOのCDなんかが所狭しと並び、ちゃおもなかよしも与えられずに暇だった私はそれらを盗み読み盗み聞きするしかない。

気付いたら趣味趣向は親世代に著しく傾き、ちまたの事を何も知らなかった私に同級生は苛立ち、漢字練習帳に「嵐」メンバーの名前の書き取りをさせるというありさまだった。丸まった鉛筆で頑張って書いた「潤」は今でも記憶にのこる。

そうして子ども時代を卒業し「若い子」になった今、

最近の若い子の間では何が流行っているの?という質問に大いに悩まされてるというわけ。

素直に「わかりません、私実は筋肉少女帯が好きなんです」と答えりゃええやろという意見もあるでしょうが、そしてもっともなんだけど。

質問者が30代後半から40代にかけてくらいの年代、すなわちおじさんビギナーである場合、下手すると筋肉少女帯を聞いてる世代じゃないし、

そうで無かったとしても先方が期待してるのって、
「いや〜いまオレ若い子と喋れちゃってるよ〜へへっ」みたいな気分になるのと、

「自分も年取ったな〜」or「いや自分もまだまだイケるな」
という感想を抱くことなんじゃないんでしょうか。

そこでね、「カラオケでよく歌うのは斉藤由貴の『卒業』です」なんてホントのこと答えてみたって、なんか、あえて感演出してイキってるみたいじゃん。


だからね、もうね、なんにも言えなくなっちゃうのね。

つまり何が言いたいかって隠語がほしい。申し訳ないけど答えられませんのでこれ以上聞いてくれるなと言う意味の隠語が。

「最近の若い子の間では何が流行っているの?」
「最近の若い子の間ではミュンハウエルが流行ってますね」
「あ…(聞くなってことか…)なるほどね」

となってくれたらどんなに楽か。

「好きなバンドは?」
「ミュンハウエルですね…」
「好きな食べ物は?」
「寿司です」
「最近ハマったドラマは?」
「うーんミュンハウエルですかねー」
「へー。じゃ、人生ではじめて買ったCDは?」
「ミュンハウエルのサードアルバムです」

ポイントは、「申し訳ないけど答えられませんので」っていう意が含まれてるところね。質問おじさんに悪意はないんでしょう。
それはもうよくわかってます。わかってますけど、こちらの事情でお答えしにくいんです、っていう、そういう意味が込められてる単語だからねミュンハウエルは。優秀な隠語ですね。


便利な世の中になりそうです。


キモい妄想(略してキモウソウ)はさておき。
さておき、今後のためにぜひ教えてください。今若い子の間で何が流行ってるの。なんて答えるのが正解なの。なんて言ったら若い子扱いしてもらえるの。

なんて、こんな、インターネットの片隅で叫んだところで誰も聞いてないんだけどさあ…………


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