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変化を恐れる現代人

こんにちは、QoiQoiの大橋悠太です。
今日は日頃から感じていることを言葉にしてみようと思います。
僕はアートという世間一般の人がやらない活動をこの年(今年26歳になりました)まで続けていますが、例えば高校の同級生などに久しぶり会った時に話していると世の中の見方や考え方にギャップを感じる機会が年々増えてきています。

思考がアーティスティックな方向へマッチョになっているのかもしれませんが、友人と話していて少し不安になるのが、多くの人が世間で話題になっていることを【詳しく知らずに話していないか】【みんなが絶賛して(批判して)いるから自分も便乗してはいないか】ということです。

けっこう大事なことだと思うので、少しまとまりきらない部分はあるかもしれませんが書いてみます!
ではいきます。


フェイクや炎上がすぐにリツイートされる時代

近年、SNSでの炎上やフェイクニュースなどがかなり問題になってきています。コロナに関するニュースでも中国の産業への打撃から”トイレットペーパー”が日本から姿を消す! というフェイクが出回り、日本中で買い占めが起こるという事態も記憶に新しいですよね。

こうした背景にはSNSの存在と共に多くの人々のメディアリテラシーの問題がネット上でもワイドショーなどでも議論されていたと思います。内容をキチンと確かめる「ファクトチェック」や踊らされない「冷静さ」が必要だ、と言った言説です。
僕はそうした言説は勿論正しいと思いますし、必要な事と思いますが、もう一つ違う角度から原因を考えてみた時に、一つ思い当たることがありました。それは無知を恐れる人々の心理です。

話題になっていたり、炎上したりしている事に対して、それを自分が知らないということ自体への恐れが人々の心にあるのではないでしょうか? そして手っ取り早く自身の「無知」を否定する手段として”リツイート”という拡散に走ってしまうのではないか、と僕は思っています。


無知の構造

この「無知」に関して鋭い観点から考察している人がいます。
僕が大学自体にかなり熱烈にハマった、武道家であり哲学者の内田樹先生です。内田先生は「無知」について、著書である「修行論」の中でこう書いています。

「無知」とは、学び変化することを妨げる力である

無知とは知識の欠如ではなく、頭の中が知識で目詰まりして他の新しい知識を受け入れる余地がない状態を言うのだ、と。

多くの人が嘘の情報や炎上に便乗して拡散をしてしまうのは、自分が「その問題については、何も知らないので答えられません(少し時間を下さい)」と正直にカミングアウトせず、「そんなこと知ってるよ」「まあそうなると思ってたよ」という態度の方を取ろうとしてしまうからではないでしょうか。
新しい知識を仕入れるよりも、さっさとリツイートしてそうした「あらかじめ知っていた」態度をとる方がはるかに楽だからです。
しかしこの態度こそが、実は無知の典型的な様態であると内田先生は言います。

人はものを知らないから無知であるのではない。いくら物知りでも、今自分が用いている情報処理システムを変えたくないと思っている人間は、進んで無知になる。自分の知的枠組みの組み替えを要求するような情報の入力を拒否する我執を、無知と呼ぶのである。(内田樹著「修行論」より引用)

コロナを例にとってみても、緊急事態宣言が起こり、移動が制限され、経済への大きな打撃がありました。そして今も第二波、第三波と流行の波が来ていますが、そうしたニュースが取り沙汰される中「こうなることは分かっていた」「だから私は前から言っていたのに」という話をする人に遭遇することが多いように思います。
しかしそれらの人々が、コロナ流行の動きを敏感に把握し、先んじて対策を取っているかと言われれば、そうした人はほぼ皆無でした。みな感染拡大した後になって、自分は初めから分かっていた、知っていたと言い出すのです。そして「どうせみんなコロナにかかるんだよ」と開き直った態度になったりします。(すべての人がそうだとは言いません。きちんと対策をされている方も数多くいるのは承知です)

またこのコロナ禍で多くの芸能人の自殺のニュースが入ってきています。そうした自殺の原因にはSNSでの心無い中傷などによるものもありました。
自分の周りに「あの人は悪人だ」という人しか居なかったからと言って、本当に「その人」が悪人であるか、という事は分かりません。当たり前のはずなのに、大多数の人が同じことを言っているのであれば、それは正しいという無条件の信憑が僕らの間にはあるように思います。
だからこそ多くの人が軽い気持ちで批判をしてしまった。
その結果、一つ一つの言葉の石ころは小さいかもしれませんが、それが何万個も投げつけられれば、投げられた人は死を選んでしまうのです。
SNSを使い、軽い気持ちで人を批判するという行為は、殺人に加担しているという認識を多くの人が持たなければならない時代なのだと思います。


僕らが扱う原発はどうか

僕らは来年3月10日~14日に新作公演「Scrap and…?」を上演します。
そのテーマは【原発】です。
原発と言う言葉を聞いて、その瞬間に日本が抱える原子力の問題点をスラスラと語り、自分の考えを整然と言える人がどれだけいるでしょうか?
少なくとも僕は会ったことがありません。

原発や原子力というモノも、多くの人々が積極的に「無知」になることによって考える事を避けてきた問題のように思います。
3.11の原発事故当時、放射能被害や放射能の特性をしっかりと理解した上で、農作物や水産物そして避難した人々の事を批判した日本人がどれだけいたのでしょうか?
「○○ベクレルが検出された」「○○シーベルトもあったそうだぞ」など数値に踊らされて、その瞬間だけは「私は知っている」という態度を取った人々が日本の中にどれほどいたことでしょう。そしてその「無知」によって心に消えない傷を負った人をどれほどいたのでしょうか。
この事について僕自身も「無知」であったことは言うまでもありません。
僕自身も無意識に「知っている」という態度を取っていたように思います。

しかし実際に現地を訪れ、原発の事を調べるたびに多くの事に気づかされ、日本の原発や福島の被災地への見方もほぼ180°変わりました。
「無知」を受け入れ、本当に「知ろう」と思わなければ出会うことが無かった、僕自身にとっては大切な「学び」の機会になりました。

潜在的な能力が開花するというのは「そういうこと」である。喩えて言えば、「鍛える」というのはハードディスクの容量を増やすことであり、「潜在的な能力を開花させる」というのはOSをヴァージョンアップすることである(「修行論」より)

僕にとっては福島へ行き、取材をした経験はただ「知識を増やす(引用でいう「鍛える」)」という事ではなく、自分自身の根底から覆され組み替えられるような経験(OSのヴァージョンアップ)でした。

今回作っている作品は、演劇という表現を用いて【原発】のことを「知る」きっかけにしてもらえたらと思って制作しています。
「難しそう」とか「重苦しいテーマだし」と敬遠せずにどうか観てみて下さい!
観客の皆さんに伝える為の工夫を最大限に凝らし、表現を楽しみながら【原発】について考えられる内容にしています。
公演の詳細を最後に貼っておきますので、気になる方はチェックお願いします!


まとめ

さて、今回は「変化を恐れる現代人」というタイトルで、「無知」ということについて書いてみました。
僕らの扱う【原発】に限らず、世の中には誰もよく知らないままに批判されている問題や人々が、まだまだ多く存在していると思います。
それらに関する情報や実際に当事者に出会った際には、冷静になり自分が「無知」な態度を取っていないか、それによって傷つく人がいないだろうかと一度立ち止まって考えてみてほしいと思います。
そしてできれば、その瞬間を「学び」の良い機会と捉え、「知る」という一歩を踏み出してみてほしいと思います。

長くなりましたがここで今日は終わりたいと思います!
まとまらない所もあったと思いますが、自分の中で大切に思う話を書いてみました。
参考になる部分があれば幸いです。
ではまた次回お会いしましょう!

QoiQoi 大橋悠太


QoiQoiプロフィール
2018年2月9日に大橋悠太と吉次匠生によって結成されたアートユニット。 当初はano(アノ)として活動していたが、2020年10月1日より団体名を改めQoiQoi(コイコイ)として新たな活動を始めている。
また、「想像力を創造する」を信念に演劇、映像、インスタレーションなどさざまな分野を飛び越え作品制作を行う。団体名のQoiQoiもquality of imaginationが由来である。 また、社会問題から個人の体験まで幅広い事象を可視化し、常に観客に「当事者性」を提示する作品作りが特徴である。

「Scrap and…?」公演情報解禁‼‼

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QoiQoiでは来年3月10日~14日(9日にプレビュー公演アリ)に新作公演「Scrap and…?」を上演します!
コロナの感染拡大によって延期をしておりましたが、その期間に更に取材やリサーチを重ねクオリティーを高めていますので、ぜひこの機会にご覧ください。
コロナ対策も万全にしてご来場をお待ちしています。(ご予約はこちら↓)

このnoteでは作品制作のことを中心に、被災地のことや原発のこと、その他考えたことなど、読んでくれている方へなるべく為になるような記事や僕らをより知っていただける記事を書いていくことを目指しています。
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