子育ては、サービスデザインそのものだ
子どもが生まれて、成長していく過程で、みなさんはどんなことを念頭において子育てをしていますか?
自分は仕事柄、しばしば「サービスデザイン」のことを思い浮かべます。
親は、いわば「子育て」というサービスの事業者で、子どもはそのサービスを利用するユーザーだ、といった具合に。そして、子育てについて「ああでもないこうでもない」と考えることは、さながらサービスデザインをやっているかのようだなあと。
もちろんそれは単なる比喩ですが、そんな視点に立つことで、子育ては単なる「タスク」ではなく、また親の理想やエゴを押し付けるものでもなく、子どもの体験価値を第一に、ゴールに向かって試行錯誤を繰り返していく営みに思えてくるのです。
そこで自分は、サービスを設計する場合と同じように、次のように子育ての「デザイン」について考えてみることにしました。
1. 目的をクリアにする
サービスは必ず「目的」をクリアにするところから始まりますよね。ミッションと言ってもいいです。Googleなら「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」、Facebookなら「人と人がより身近になる世界を実現する」。たとえばそんな感じのことです。
サービスに備わっている機能や、そこで使われている言葉の背景にはすべて、この「目的」が通低音のように流れています。また、サービスに何か新しい施策を取り入れるときも、目的と合致しているかどうかは、最も重要な判断材料になるでしょう。
これと同じような構造が、子育てにも当てはまるなと私は考えています。
子育ては、サービスの設計や運営と同様に、選択の連続です。どんなおもちゃを与えるか、どんな保育園に通わせるか、どのようにしつけをして、いつから何の習い事をするか。こうした子育てを形作る個々の要素に対して、最良の答えは何か?と考えるのが親の常ですが、「それが何の目的のための選択なのか」と立ち止まって思考する機会は、実はあまり多くないのではないかと思います。
もちろん、やれるものなら全部与えたいしやらせたい。しかし時間もリソースも限りがあります。しかも、情報は溢れかえってるし、毎日のToDoをこなすだけでも精一杯…。だからつい具体的な「WHAT」や「HOW」の部分だけに頭が行きがちですが、場当たり的に判断していると「子育て迷子」になりかねないなあと。
多忙な子育て中でも(いやむしろだからこそ)、「WHY」つまり目的の部分に立ち返って考えることはとても重要で、サービスデザインと同じく、それは子育てにとっても大きな行動指針になると思うのです。
ただ、目的を押し付けることや、目的が叶いそうにないからといって嘆くことは、避けなければと思っています。仮にサービスがユーザーにフィットしなかったとしてと、目的を見直して軌道修正すればいいと思うのです。何度でも。
ちなみに我が家の場合は、「自ら発見し、考え、創造する人間に育てること」というのを今のところ子育ての目的に据えています。
2. 目的をチームで共有する
サービスも子育ても、多くの場合はチームプレイ。しかも、マラソンのように長い距離を全速力で駆け抜ける間に、猛烈な数の選択を積み重ねていかなければいけません。だから、メンバー全員が目的に対する共通認識を持っておくことがすごく重要だなと思います。
できればそれを紙に残したりして明文化しておくといいと思います。さすがにおじいちゃん・おばあちゃんにまではシェアしてませんが、我が家では前述の子育てのミッションについて妻と相談し、二度ほど手直しを加えた上で紙に書いて、2人で「よし」と決めました。(でも実は、それは上の子が3歳半になった時のこと。もっと早くやっておけばよかった…。)
3. ユーザー体験を考える
サービスの目的が決まり、チーム全体でそれが共有ができたら、その目的に沿って徹底的に最高のユーザー体験を考えます。
我が家の場合は、「自ら発見し、考え、創造すること」、つまり、子育てを通して「発見する力」「考察する力」「創造する力」を養うことを目的としているので、その3つを伸ばせるようなアクティビティ(遊び、会話、玩具、習い事、などなど)をなるべく多く子どもに提供しようと考えています。もちろん本人の反応を見ながら、あくまでユーザーファーストを忘れずに。
また先日、とある理由で保育園を転園させるかどうか議論になったときも、この目的が、行動指針としてとてもよく機能しました。園の特徴をそれぞれ列挙して、どれが自分たちの子育ての目的とマッチしているか評価していくのですが、見学の際のチェックポイントを整理する上でも非常に役立ちました。
当然、最終的には通いやすさなど実用的な評価が加味されつつも、自分たちがやりたい子育てのゴールというのは、何にも代え難い大きなプライオリティになることは間違いありません。
サービスの終了
実際のところ、子育てにはゴールや正解はないし、子どもは親の考えた「サービスデザイン」の枠組みをすり抜けて、勝手に大人になっていくものだと思います。
それでも自分としては、単なる「タスク」の積み上げではなく、長期的な「サービス」として子育てに取り組む大切さや面白さと向き合っていたいなあと思います。場当たり的な選択ではなく、なるべく本質的な判断に基づいて、子どもにより良い機会をたくさん与えるためにも。
余談ですが、最近読んだあるエッセイには、「子育ての究極の目的は、子が親を不要にすることだ」と書いてありました。きっといつの日か、いつのまにか、気付いたら自分にとっての「子育てという名のサービス」は終了しているのかもしれません。
ひとまずそんな日が来るまで、日々このサービスをカイゼンして行きたいと思う今日この頃です。
よいサービスを設計するためのヒントについて書いています。