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(ショートショート) お久しぶり、UP&DOWN

夏が終わろうとしているこの時期の夕暮れを、俺は最近になってようやく好きになり始めていた。

我が赴任先の最寄り駅の駐輪スペースに愛車のトライアンフSPEEDを停める。ヘルメットを脱ぐと真夏に比べていくらか汗の出は優しいものになっていることを実感する。メット内の嫌な蒸し加減や白シャツを濡らす汗も多少は引いており、運転中に袖口から吹き込んでくる風が毛穴を引き締めてくるように冷たくなっている。

この駅は地域最大の主要駅ではあるのだが、俺が大学時代を過ごしていた立川の中央線の駅を少ししょぼくしたぐらいの規模だ。それには寂しさを感じるが俺にはこれくらいのサイズがお似合いだとも思う。あまりにも大きすぎても持て余してしまうし構内の全容が簡単に掴めてしまうこの駅は居心地がいい。

ヘルメットを片手にファストファッション店の前に構えるチェーン喫茶店へと入りアイスコーヒーのスモールサイズを注文する。それらに手を塞がれた俺は窓際のカウンター席に体をねじ込むようにして座った。そろそろ気温も落ち着いてき出す頃だが店内は未だによく冷房が効いていた。プラスチックストローを包装紙から取り出してカップに刺しコーヒーを吸い込む。店内同様によく冷えた液体が熱々の頭を冷やしていく。

一息ついてからスマホをジーンズのポケットから取り出しメッセージを打つ。送信してスマホをポケットに収め俺がアイスコーヒーに熱射気味の体を癒されていた時、返信がきた。

『もうすぐつくよ』

俺は返事を打つ。

『また連絡ください』

送信してコーヒーを飲んでから俺は席を立ち、タバコを片手に喫煙スペースで一服する。煙と戯れて席に戻り毒にも薬にもならぬネット記事をぼーっと眺めていると俺のスマホが再度メッセージを受信する。

『あと5分ぐらいでつくっぽい』

思いのほか早く到着しそうな彼女を迎えにいくために俺はまだまだ残っているコーヒーを勢いよくすする。それを四口で完飲して食器を返却口へと下げた。かき氷を食べた時のように頭がキンキンしていた。

高速バスの停留所のベンチの近くに彼女は佇んでいた。彼氏の単身赴任先に来るにはあまりに少ないように感じる手荷物の少なさに俺は傍目から軽く驚いた。背負ったリュックと小さなトートバッグが一つだけ。俺は彼女に近付き声をかけると、それに朗らかな口調と満面の笑みで応える彼女。そして言う。

「ゲームセンター行こうよ」

彼女は自身の右肩にかけていたトートを俺に押し付けながら言葉を続ける。

「さっきネットで調べたら駅ビルに入ってるって書いてた」

旅の疲れを全く感じさせない足取りで彼女は俺の数歩さきをゆく。

俺たちは連れ立ってエスカレーターを用いゲームセンターがあるフロアへ向かった。商業施設内も冷房がしっかりと効いていた。

目的地に着くと彼女は真っ先にクレーンゲームのコーナーへと向かって行った。そこは学校終わりの地元の学生が一過の暇を持て余して大挙していた。彼女は複数の透明なボックスの中を踊った心を隠さずに吟味している。俺はそれについて行くだけだ。少ししてどうやら目を奪われたらしい一台のマシーンの前に立つ。軽量素材の洒落たズボンの前ポケットに入っていた小銭入れから硬貨をマシーンに入れる。挑んでいるのはテレビアニメのキャラクターがデフォルメされたぬいぐるみがぎゅうぎゅうに敷き詰められた箱だった。

それに彼女は苦戦していた。どんどんとがま口財布からマシーンへと小銭を移していく。

「あぁ゛」「もう゛」

眉間に皺を寄せて多少気を荒くしながらも彼女は果敢に挑み続ける。その姿を俺は相変わらず眺めている。それは俺にとって万能薬になりえた。

あまりに真剣な眼差しでもって格闘する彼女から俺はリュックを預かる。見事更なる軽量化を果たした彼女は右へ左へ縦横無尽にマシーンの周りを動き回った。

そして見事に目的の品を七百円をかけて手にした彼女は俺に最大限の笑顔を見せた。

「うまいじゃん」

「でしょぉ」

上目遣いで同意する彼女。

「よっしゃ、帰ろう」

すっかりと上機嫌になり再び俺の数歩前をゆく彼女が言った。俺たちを地上へと降りて我が愛車が待つ駐輪場へと手を繋いで向かった。

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