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安道久一郎 Qichiro Ando
2024年8月29日 13:51
セミの鳴き声も随分と落ち着いてきたように感じる。あの騒音レベルとは程遠い不思議な心地よさがある、九月初旬の音。俺は窓の外をふわふわと漂う入道雲とその手前で揺れるレースのカーテンの影を網膜にうつしていた。今日は2学期の始業日、クラスメイトたちは再会に胸躍るといった様子だ。方々から大きな声を出し合い各々の喜びの丈と夏休みの土産話を披露していた。教室窓側の二列目後方に陣取った俺の新たな席は誰からも見
2024年8月18日 19:18
会いに来てくれてうれしかったなぁ。たった五ヶ月であんなにもしっかりと言葉を操れるようになるんだな。懐かしく思えてならないよ。ユウタロウも君ぐらいの時はおしゃべりが好きな子どもだった。婆さんもそう言っていたがな。おっ、ウィンカーが出たということは、この先で休憩を挟むんだな。そりゃそうか。ユウタロウが朝っぱらから呑んだせいでコノカさんに運転を押し付けるようなことをしたもんだからな。ごめんな
2024年8月12日 17:15
蝉の声がさんざめく真夏の甲子園球場のスタンド席から私は球場全体をぼんやりと眺めていた。まだ小さかった頃に母と兄の試合を応援に行った時の記憶。母のさす小ぶりな日傘のわきから見える青く澄み渡った夏空と輪郭がはっきりとした入道雲。それを全て飛び越えて私たちを照らすうだるほどの暑い日光。私たちの周りには他の選手の家族や強豪野球部の控えの面々が応援に喉を枯らす。野球のルールをよく把握できていない時分