【読書録】ベル・フックス『アート・オン・マイ・マインド』雑感

 まず、情報が乏しい。邦訳が、全著作の半分くらいしかないだろう、ベル・フックスは。代表作は邦訳されているけど、要は、アメリカのコアな文化に触れているが、それを直接間接に享受する日本人がいないから、メリットがないと思われたのかもしれない。さもありなんといえばそうだけれども。

「黒人性は、アメリカ全体で、戯画化され、ステレオタイプを押し付けられている。それに対抗するために、写真の力がとても有効に働く。黒人の家には、家系図の代わりのように、今までの家族の写真が並んでいることがある。ギャラリーなど行けない人々にとって、そこは自分たちのギャラリーとなっていた」という部分があって、とても納得感があった。どこかで、表現する内容は別であっても、絵としての機能、また写真としての機能は、民族によってそれほど違いはないだろうという、自分の思い込みの部分を訂正することができた。

 特に、キャリー・メイ・ウィームスという写真家の、ギリギリまで批評性を発揮した写真群。写真とペイントを駆使した、表紙にも使われている、エマ・エイモスの作品群。が、どれにしても、やはり、情報が少ない。日本人には、特にだろう。何というか、インターネットに何でもあると思い込むのは、バイアスがかかっているとか以前に、存在しないことになっているといってもいいほど、情報のない対象があるのに、それと気づかないところが、とても危険なのではないか……。

 全体として、とてもいい読書になった。読む前と、読んだ後で、この本の印象、黒人文化というもののイメージが、かなり大きく変わったといっていいかもしれない。

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