【読書録】保坂和志『猫が来なくなった』

 保坂和志という人は、随分前から追っている。他にここまで読みつくした作家はいないというくらいに、読んだといえる。逆に、そこまで読んだといえる作家がそれほど少ないことを、反省しなければいけない。
 それで、保坂和志については、どんな流れでこの本にまで至ったかということが、おおよそわかる。今までの二つの小説としての転機は、一つは「カンバセイション・ピース」で、もう一つは「未明の闘争」だったと思う。
 未明の闘争が2011年くらいだったと思う。それからしばらく、それほど熱狂した作品もなく過ぎた。しかし、昔からそうだったとは思うが、自分の唱えている文学、というか芸術論に沿って、着々と作品を出し続けていた。前に「ハレルヤ」を読んだが、短篇チックであり、最後に「明け方の猫」という、「カンバセイション・ピース」より少し前に出していた短篇を再録していたというのもあるかもしれないが、何だか印象が薄くなった感じがある。
 今、これを読む前に、「読書実録」を読んでおけばよかったという気がしている。
 未明の闘争から最近になると、いよいよエッセイと小説の間というか、作り物としての小説ではなく、限りなく作者が語り手として語っているという方に、バランスが近くなっている感じがある。
 とにかく、「猫が来なくなった」の話だが、今までの流れからして、いよいよ振り切れた方向に向かっている感じを受けるのは、もともとのスタンスの帰結ともいえるが、それにしてもすごいものがあると思った。
 しかし、保坂ワールドを知らなければ、ちょっとついていけない部分もあるのではないか。これも、もともとそうかもしれない。その度合いも、前よりも増している気がする。
 保坂和志と猫と、小島信夫とカフカと、というものについて、作者とこれらのものとの関係とか、保坂和志の読解としての作品とかについて、馴染んでいないと人が読み始めたら、それはそれでわからなくて読むのかもしれないけれども、よくわからなくて投げてしまう人もいるだろう。
 しかし、それでいいんだよ、もともと万人に読まれようというのが、虫がいいし、そういう感性に引っかかる人に読んでもらえれば、それでいい、というような、作者の声が聞こえてきそうな気がする。

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