【日記】微分音

 最近、微分音を用いた音楽を、よく聞く。
 微分音とは、音楽における、音程の拡張理論である。ピアノの音程は、音程における「1」である、オクターブの間を十二分割している。今後、どの音程を相手取っても、「1」は揺らがない。問題は、それをどう分割するかである。
 微分音とは、これを12以外の数字で分割するものである。
 代表的なのは、そのすべての音程を二分割し、全部で24の音程を使用し、新しい音楽を作る試みである。
「新しい音楽を作る試みである」とは、その他の微分音の音楽すべてに通じるので、わざわざ言うことではない。
 たとえばだが、すべての音程に、半音の半分、高いか低いかする、新しい音が追加された。全てを組み合わせれば、もちろん、物凄い音楽が生まれるのだが、試しに、その新しく加わった音のみを使用して、音楽を作成してみる。すると、全てが半音の半分だけ高いか低いかする、十二の音程があるのだが、その間隔は、実はピアノの鍵盤とちょうど一致する。人間は、音と音の間の距離を感じることは出来るのだが、絶対的音程、いわゆる絶対音感だが、その、今鳴っている音が何ヘルツであるとかいったことは、感知しない、基本的には感知しないのだ。音楽の展開には関わってこないと言い換えてもいい。とにかく、本質的には今までの音程と全く変わらない音楽が出来上がるというわけだ。
 シャープより半音の半分だけ高い音を、楽譜では、たとえばシャープにさらに矢印を足して、表現したりする。フラットも、ナチュラルも同様である。さらに、シャープの、横線を一つ省いたもの、等々、要は記号はいくらでも作れる、それを基にした、新しい楽譜を使用して作る音楽がある。
 もう一つ、もう直接、この音は何ヘルツと何セントであると、もう直接指定してしまって、作る音楽もある。こちらの方が、より精巧に波長を指定することが出来る。
 ただ、そうすると、今まで音楽の言語として使用してきた、楽譜という空間は、三桁から五桁の数字のみの支配する空間になり、要は、この空間を、数列ではなく言語としてどう表現するかという問題が生じてくる。
 言語は、誰かと通約する為だけに存在するのではない。自己の思惟を可能にするものが言語である。
 内部空間をどう表現するか、という問題に戻って、一オクターブの間の分割を、均等に、三とか五とか、二十七とか、今まで割られたことのない数字で分割し、新しい音程を作り出す試みもある。

 さて、音程の作り方はだいたい説明した。知りたければ、調べればたくさん出てくる。
 音程が出そろったとしても、今までの音楽の歴史を踏まえたうえで作られる音楽と、そうでない音楽は、音を聞けば一発でわかる。
 歴史を踏まえずに作られた音楽は、単に不調和な音がランダムに流れるだけのものとなる。一方で、どのように響くのか慎重に考えられた微分音の音楽を聞くと、今まで慣れた音楽を聞いた耳にしてみると、はじめは居心地悪く感じられても、その味わいは、たとえば十二色しか使わなかった絵に虹色が響き渡るような、独特の爽やかな風が流れるように感じられもする。

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