写真家 星野道夫
1996年8月、星野道夫さんがこの世を去ってから今年で26年になるが、
今も色褪せることなく、作品やメディアを通して、多くの人の心を打ち、
影響を与え続けている。
もちろん私にとっても大好きなアーティストの一人だ。
星野道夫さんをご存じない方のために、以下簡単なプロフィールとなる。
https://www.michio-hoshino.com/profile/
写真家として、また冒険家として、
アラスカで暮らす彼が撮影したものは、
大自然に生きる動物や、北極圏の大地、
野生動物と共生する人々の暮らしと、そこで語り継がれる神話に至るまで
様々である。
どれも日本にいては決して見ることのできない世界。
人が決して足を踏み入れることのない森や氷河の中で、
同じ時代の同じ時間に、確かに生きている動物たちがいる。
東京の高層ビルに囲まれて日々生活している私にとって、
同じ時間に、アラスカの厳しい大自然の中で生きる動物たちと、
彼らの呼吸を想像することは、
忙しない日々の束の間の休息かのように、
私の心をとても健やかに、そして穏やかにしてくれる。
また星野さんは、写真集もたくさん出版されており、
そのどれもから悠久の時を感じることができるわけだが、
彼は写真の才覚だけではなく、静かでかつ味わい深い言葉を綴る才覚もある。
これまで私は彼の言葉に何度も救われてきた。
著書はいくつかのあるが、なかでも『旅をする木』という
33篇を収録した短編集は、私に多くの気づきを与えてくれた。
1978年、星野さんが初めてアラスカの地に降り立ってから出会ってきた、
たくさんの人たちの生き方や歴史、また動物たちとの関わりなど、実に多くのことが綴られている。
例えばそれは、
アラスカ先住民族とのクジラ漁であり、
オオカミとの出会いであり、
カリブーの大群との遭遇である。
そんな数々の物語を読み進めていくうちに、気づけば遥か昔の地球に思いを馳せていたりする。
それはまだユーラシア大陸とアメリカ大陸が繋がっていたとされる時代、
日本のDNA(祖先)は、北海道から現在のベーリング海峡を越えて、アラスカの地にやってきていたのではないか?とか、
読み書きによるコミュニケーションができない時代に、
後世に文化伝承していくための手段として、動物たちの物語や歌、踊りを信仰とからめていったのではないだろうか?とか、
現代では忘れ去られてしまった、目に見えない世界との関わり方や、
人や自然との関わり方の根幹が、この本には詰まっているように感じてならない。
ここには書ききれないが、星野さんがトーテムポールを探しに行く話なども、是非機会があれば読んでいただきたい。
断っておくが私はスピリチュアルな世界に疎いので、信仰する世界を明確に持っているわけではない。しかしそんな私の心にも、星野さんの紡ぐ物語は響くのだ。
これは現代においても、ひとつの文化伝承に成功したと言えるのではないだろうか。
アーティストが目指す完成系のひとつがここにある。
アーティストはどのようなことを目指して作品をつくるべきか、
その応えのひとつがここにある。
と私は思う。
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