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名前の由来|つけられない|柴田葵

岡崎体育みたいな筆名にすればよかったな、と思うことがある。尾崎世界観とか。そういう、一般名詞がそのまま名前になっている人。

たとえば、お気に入りの人形、誕生日にもらったクマのぬいぐるみ……大切にしていたそれらに名前をつけようと、小さい頃、私は何度も試みた。けれどどんな名前をつけても、途端に決まりが悪いような、偽物になったような、よそよそしい感じがしてしまう。結局、クマは「くま」と呼んだ。リカちゃんは「リカちゃん」と呼び、ジェニーちゃんは「ジェニーちゃん」と呼んだ。一般名詞、または商品名だ。

名前というのは、重い。付与した人間の思いがどうしたって反映される。私はできるだけ身軽でありたいのに(ただでさえ抱えるものがいっぱいあるんだもの)筆名なんてどうすりゃいいんだろう。結局、葵というのは本名だ。それ以外にしっくりくるファーストネームが思いつかなかったのだ。「葵」も植物名なので、まあ、一般名詞といえば一般名詞かもしれない。一般名詞は、そのもの以上の意味を背負っていなさそうなところに安心する。話は逸れるけれど、去年の今頃「毎週web句会」に何回か川柳を投稿し「芦田緑」という名前で載せていただいた。その時、短歌に煮詰まっていて、違う名前で他のことをしたくなって。これ、私です。

リカちゃんの首を十円玉で買う  芦田緑
だるまだるますごい速さで転がって
給食のパンが明日からナンになる
ハイソックス履いて私の銀世界

芦田緑って筆名も良かったな、と思いつつ、もう本を出版してしまったので、今の筆名のままでいくしかありません。本が売れれば売れるほど後戻りできなくなるので、どうぞご購入くださいね!(突然の宣伝)(こちらは句集じゃなくて歌集=短歌の本です。現代口語短歌に取り組んでおります)

歌集『母の愛、僕のラブ』柴田葵(書肆侃侃房 2019.12)

ちなみに、私の家にいる幼児はお気に入りのボール(3個セット)に名前をつけていて「カレン」「チッチ」「ごうの・まき」らしいです。
これぐらい自由になりたい。

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名前の由来

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