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数学科における数学教育の呪縛

 こんばんは。q3wです。今日は数学科における数学教育の呪縛というテーマでお話をしたいと思います。
 軽く自己紹介をすると、私は今年度理学部数学科卒業予定・修士理学研究科数学専攻に進学予定の者です。


大学における数学科とは

 全国の、国公立・私立大学に設置されている数学科は理学部または理工学部に所属していることが多い学科です。その名の通り大学では数学を勉強します。具体的には、大学1回生・2回生時に微分積分・線形代数や集合・位相を勉強し、大学3回生以降は自分の興味ある分野や専門分野を勉強・研究していくことになる学科になります。数学では主に、解析学(微分積分)・代数学・幾何学・応用数学(確率論やプログラミングの分野など)という分野があります。特徴として、多くの大学では中学校や高等学校の数学の教員免許を取得できます。一部の大学では、数学の教員免許の他に理科や情報といった希少価値のある教員免許が取得できる大学もあります。

数学科における教員の就職割合

 大学によって異なりますが、数学科では15%~20%が中学校・高等学校の教員に就職します。またその2倍程度の方(学科内では40%程)が教員免許を取得します。教育における数学は主要教科ですし、数学科を卒業して直接的に数学を用いた仕事に就きたいと考える学生にとっては数学科教員になりたい学生が多いことも事実です。

実際に教員志望の数学科学生は多いのか?

 実際に数学科に通ってみての体感は、教員志望の学生が多いなという印象です。大学入学当初、初めて知り合った人の開口一番は「数学の教員になりたいから来た」でしたし、オリエンテーションや授業を通しても教職課程履修者が大半でした。私自身、入学当初は学科内の友人とお話するとき、会話に困れば「教職課程取ってるの?」で乗り越えていたような気もします。私も高校時代は数学科に行くなら、数学の教員にでもなるのかな?と考えていましたし、このnoteを読んでいる方の中に高校生の方がいらっしゃれば、そのような方もいるかもしれません。

なぜ、数学科卒業生は教員になる人が多いのか?

 まず、第一の理由は就職先がない!(笑)だと思います。実際は多少はあるのですが、それでも工学部や理学部の他学科に比べると数学科の就職活動は少し、苦戦するように思います。数学という学問の欠点は速効性があまりないというところです。仮に素晴らしい理論や発見をしたとしても他分野でその事実が使われるようになることはもっと先になります。もっとも数学科の研究者の中には単に数学という学問の追求を行うことを第一目標とし、他分野への応用や興味・関心以外でその研究を何故、行うのかを明確にしていない研究者も多いです。そうした学問の性質上、社会でも直接役立つ仕事が少ない印象があります。その中で、数学の教員は非常にイメージのしやすい数学を直接使った仕事の1つだと思います。教育は多くの人が受けますし、その中で数学や算数の授業を受けたことがあるという方がほとんどではないでしょうか?そうした観点で数学の教員を目指す人なる人が多いという印象があります。

目の当たりにした数学科

 私自身は高校1年生の時にある大学の学部説明会を受け、工学部ではなく理学部に進学しようと決めました。父が工学部出身だったこともあり、おそらく当時から理工系の分野に興味があったことは間違いありませんが、学問の理を明かすという観点で勉強できる学部に強烈な魅力を感じたからです。その後、どの学問を学ぶかで非常に悩みました。化学が面白そうと思っていた時期もありましたし、元から好きだった物理の力学系の分野を学びたいと思っていた時期もありました。また、高校では地学を勉強しませんでしたが、気象や地震などを物理学的なアプローチから研究してみたいと考えている時もありました。紆余曲折の末、大学は理学部数学科に進学することになりましたが、私自身興味のあった学問を大学でも勉強できるという高揚感に満ち溢れていたことを覚えています。このように学問と学問をともに学ぶ学生との出会いに過度に期待することは数学科の場合やめておいたほうがよいでしょう。数学科の場合、教育学部との受験の兼ね合いで進学してくる学生も一定数います。彼らの目的は教員免許を取得し、教壇に立つことですから、大学入学当初の目的意識のギャップに苦しめられることになります。具体的には数学の教員免許を資格の1つにしか考えない学生とそうでない学生に分かれます。数学科では数学のことが好きな学生は多いです。なので課題やテストなどを乗り越える際は非常に頼もしい存在です。ただ、大学数学や学問としての数学となるとそこまで理解しにいかない学生も一定数います。高校数学までは教員採用試験で使うから勉強するけど、大学数学はちょっと…という学生がいるのも事実です。また数学科ではしばしは教職vs非教職の構図を目の当たりにします。別に敵対しているとかそういうわけではありませんが、授業の都合上教職組は仲良くなったりするので非教職組が蚊帳の外になってしまったり、教職組が少ない大学では教職組が蚊帳の外になってしまう構図が浮き彫りになる大学も多いのではないでしょうか?私はこれらのことを数学科における数学教育の呪縛だと考えます。

数学科における数学教育の呪縛

 まず、教員志望の学生の中には、「学校の教員になるから大学数学は卒業できる程度にしておいて、あんまり勉強しないでいいや」というスタンスの人が一定数います。このことは非常に残念なことで悲しい事実です。確かに大学数学では集合・位相などの難しい内容があることも事実です。高校数学の内容がよくわかっていなければ、その手前の線形代数で苦戦している人も少なくありません。分からないところが分からない状態になってしまう学生も多いかと思います。でも理学部は学問の理を突き詰めるところなのだからちょっと頑張って勉強してみては?というのが正直なところです。でも、多くの教員志望の学生は目先の教員採用試験合格に向けて高校数学を勉強します。確かに大切なことではあるとは思うのですが、なんかずれているようなそんな気がします。例えば高校数学の教員になるのであれば、区分求積法はリーマン積分のとある一区間に着目したものです。大学入試で数Ⅲ区分で出題される関数の不等式評価の根本にはテイラーの定理やマクローリン展開が隠されたりしています。中学校の教員になるとしても、連立方程式は行列を用いても解けますし、係数や解の値がまずければ、解なしや解が複数個出てきてしまう連立方程式もあります。こうした背景知識を面白い・知ってるよっていう教員志望の学生がどれくらいいるのかなと思います。また、高校数学教えることがしんどいから中学校の先生になろうとする人もいます。それってどうなんでしょう?確かに高校の教員採用試験と中学の教員採用試験には明確に難易度の差があるように感じます。でも、高校数学教えるのが難しいから、中学校の先生になるというのはただの甘えにしか聞こえません….そしていつしか、大学数学の話題を話す友人は減り、模擬授業や模擬面接に勤しむ友人が増えていきます。純粋に数学を学びたい!楽しみたい!という人にとってはとても辛いことです。こうして数学を直接使って唯一食べていける職業、数学教育の呪縛を受けていくのです。

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