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タグ付けしたがる私たち

釈迦に説法、噺家に芸談

私は落語が好きで、以前は高座を聴きに行った後の噺家の方との打ち上げも愉しみで頻繁に参加していました。

そこで長年の落語好きの知人から、その場に参加されていた、とある師匠について「『芸談だけは素人としない』といっているから気をつけた方がいいよ」と言われたことがありました。

「そうなのか」と思った私は、それから他の噺家さんに対しても、こちらから落語については話すとしても

「今日の噺、面白かったです」

くらいにとどめるようにしました。

もちろんそれまでも細かいコメントなどしようとしたことすらなかったのでしたが…。

しかし同席するファンのなかには

「○○のくだりは、こうやったほうがいいんじゃない。△◾️師匠はこんな風に演じてたじゃないか」

とか

「名人○□師匠は、こんなサゲでやってたよ」

などといったように指導めいた話をする方がいることも確かでした。

でも噺家さんのなかには、例えば御自身の新作落語の作成秘話を話してくださったり、裏側の話を聴かせてくれる方もいらっしゃったり、そのような方だと、こちらからいろんな質問をしても快く応えてもくれました。それは非常に楽しい時間でした。

しかし、ここで最も重要な伝えたいことは、相手は徹底的に研究して、長い年月に渡って懸命に稽古に稽古を重ねて来た「噺のプロ」であるということ。

素人同士で落語談義を行うのは、この上なく楽しいです。

とはいえ素人が素人同士で思うことは自由であっても、現実にどこまで芸について噺家本人に伝えるかは、考えものです。

これに関しては、俳優の佐藤二朗さんも具体例として挙げています。

それというのも、芸人に芸を語ることは、

「プロ野球選手に野球お上手ですね」というようなものと同義だからです。

この例えは非常にわかりやすいです。

誰もプロ野球選手にピッチングやバッティングのやり方をアドバイスする素人っていませんよね、普通。


○○派

先に引用したのは、以下の話題。

佐藤二朗さんが「演技派俳優」という言葉に違和感を示した、というものです。

その後以下の記事のように、佐藤さんは「後悔している」という胸の内を明かしております。

しかしながらこのコメントによって佐藤さんは、先の「演技派」とタグ付けされることに対しての違和感をさらに強めているとも私は感じます。

そこには自らを含めた実力ある俳優としての自負、自信がみてとれます。


国民的

私としても、ずっと子供の頃から、ずっと気になっている、そして違和感を感じる言葉があります。

それは、

国民的美少女』、『国民的アイドル』、『国民的アニメ』…

という表現です。

そもそも「国民的」とは

こくみん‐てき【国民的】
〘形動〙 規模が国民全体にかかわるさま。

という意味です。

でも

「国民全体に関わる」美少女っています?

アイドルっています?

アニメも?

美少女・アイドルといっても興味のある方ばかりではないです。

アニメ好きな人もいれば、全くそうでない人も多い。

しかし定着している言葉であるからゆえ、多くの人にとっては不満や違和感はないということなのでしょうか。

違和感を感じるのは私だけかしら?

ややもすると「国民に幅広く浸透している」という判断は、何かしらの数値が基準にでもなっているのだろうか?と知りたくて、結構検索してみましたが、残念ながら該当する情報は得られませんでした。

数十年前は新聞、ラジオ、そして地上波のテレビくらいしかマスメディアが存在しないので、国民の多くが認知するということも起こり得たでしょう。

しかしいまやテレビも多チャンネル化し、さらにはテレビすら全く観ない世代・集団や、SNSや動画配信サイト、ゲームなどが中心の集団と、現代においてメディアはより多様化しており、「知らぬ人はいない」というようなコンテンツが存在し得る状況はなかなか起こり難いのではないかと思います。

そういった面からも『国民的』というタグ付けは、現実的にも時代に即した言葉とは言い難いと考えます。


おわりに

いずれの話題においても共通していることは、我々は得てしてタグ付けを好む一面があることです。

そのタグ付け自体を納得するか否かは別として。

そもそもタグ付けする理由は、実際の荷物などにつけるタグがそうであるように、伝えるために「分類した方が都合が良いから」であると考えます。

「分けることでわかる」という言葉があるように、何かしらにカテゴライズされていると、認識や理解の大いなる手助けになるわけです。

そうはいっても、それぞれ個人レベルでも、ましてや当事者にとっても、意にそぐわないタグ付けはあるものです。

よって、タグ付けは、理解を助けるメリットがある反面、無理解を深めてしまうデメリットもあることを知っておく必要がありそうです。



おしまい

最後までお読みいただきありがとうございます。 いただいたサポートは麦チョコ研究助成金として大切に使用させて戴きたいと思います。