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私らしさを引き出してくれるのは

私は元々内向的な性格だ。
どちらかというと明るい人だと思われがちだけれど、それはその場でたまたまそう振る舞っているというだけ。

一人で過ごすことが好きで買い物はもちろん飲食店も一人で行くことが多いし、幼い頃から一人で黙々と作業をするほうだった。
新しい環境に飛び込んでそのコミュニティに溶け込むのに時間がかかるし、友達もなかなかできない。
人と話すことが苦手なので服屋さんなどで初対面の店員さんに話しかけられると縮こまってしまって思っていることの10分の1くらいしか話せない。通いつめているお店でもスタッフさんからアクションがない限り自分から必要以上の会話はしないので、下手するとしょっちゅう会う他人で終わる。

ネガティブで卑屈。そのお陰で失敗せずに済んだこともあるし、負の感情を向上心に変えて生きてきたから悪いとは言い切れないけれど、良いことではないというのは理解している。
その一方で寂しがり屋のおしゃべり好きで、親しい友人と話し始めると止まらないし、飲み会などでは自分が帰った後どのような会話をしているのだろうと思うとなかなか席を立てなかったりする。
一人の時間を他の人よりも必要としていて、長時間大人数で過ごすと疲れてしまうのにこんな面を持っているのだから、自分は面倒な人間だなとつくづく思う。

「放っておくと何も話さないし、黙ってるとなんも面白くないけど、噛めばいい味が出る」
高校の部活で恩師に言われたこと。
部活の中でいわゆる”いじられキャラ”だった私。なんだか先生のおもちゃみたいになっているな、と感じたこともあったけれど、人と仲良くなるのが苦手な私に対しての配慮だったのではないかなと、今となっては思う。

何かと話しかけられて、そのたびに急にみんなの注目を浴びて、少しからかわれて、みんなが笑う。無意識のうちに端っこに行ってしまう私を、他の人が集まっているところに連れ出してくれていたのではないだろうか。
入部したての頃、すでに同級生の中で打ち解けあっている人たちがいて、その時に強く感じた疎外感は半年ほどたつと消えていたし、高校2年になるころには互いに気軽に話しかけられるようになっていた。
先生という存在が苦手で、先生なんて明るい子が好きなんでしょ、なんて失礼な偏見を持っていたために気軽に相談できる先生というのはほとんどいなかったのだけれど、恩師には競技以外のことも相談できるようになっていた。

陸上競技部では自分の考えを伝えること、他の人の考えを聞くことを強く求められた。その考えというのは、競技だけでなく陸上競技部という組織に対しても、個々人に対してもだ。時には厳しいことを言い合うこともあった。
そんな中で自分の考えを伝えることの大切さを知ったし、客観的に見た自分というものを知ることもできた。

考えは話さなければ伝わらないし、聞かなければわからない。
自分では当たり前だと思っていたことも他の人にとってはそうではないこともある。
客観的に見て初めて気づく自分の長所がある。何気なくしていたことが他の人から高評価を得ていることもある。
互いに違う部分がそれぞれの個性、自分らしさであって、一人ではなく誰かとの相互作用で引き出されるものなのではないかと思う。

冒頭で書いたように私は内向的で人と話すのが苦手で、友達はなかなかできないしネガティブで卑屈だ。
それでも日々楽しく生きていられるのは、周囲の人やものが、私らしさを引き出してくれ、明るいところへ連れ出してくれているからなのだと思う。
好きなものを通じて出会い、少しずつお互いのことを知っていって親しくなった人がいる。
学校や職場で出会い、一緒に勉強したり仕事をしたりする中で親しくなってたわいもない話から真面目な話までできるようになった人がいる。
無理のない距離感で、程よい温度で接してくれる人がいるから、安心して自分を解放することができるし、穏やかな気持ちで会話することができる。

日々笑顔で楽しく過ごしているのは、一緒にいる人が和やかな空気を作ってくれているから。
誰かが困っているとき、落ち込んでいるときに、力になりたいとか励ましたいと思うのは、自分が似たような状況に置かれたときに手を差し伸べてくれた人がいるから。
面白いことや前向きなことを話すのは相手の笑顔が見たいからだし、相手の話を聞くのは相手のことをもっと知りたいから。

何もかもが嫌になってしまったときに、逃げこめる場所がある。
落ち込んでいるときに、落ち込んでいたことを忘れてしまうほど夢中になれる趣味がある。
前向きになりたいときに、励ましてくれる音楽がある。
なかなか勇気が出ないときに、背中を押してくれる人がいる。

一人では気づくことのできなかった自分、出すことのできなかった自分を引き出してくれる人やものがあるから、私は今日も私らしく過ごすことができている。ちょっと照れくさいけれど、いつもありがとう。
そして私も、誰かの個性を引き出すことができていればいいな、と思う。

[あとがき]
大学の同期の女の子たちが先日大学院を卒業しました。
私は大学院を退学してしまったけれど、それでも親しくしてくれている友人です。
修了式はなくなってしまいましたが、大学に行って一緒に写真撮影をし、とある女の子の提案でお互いに寄せ書きをしました。
その現場を通りかかった先生に撮っていただいた写真は、みんな笑顔で写っていてとても素敵な宝物になりました。
笑顔で写真に写るのは苦手な私ですが、このときは自分でも驚くくらい自然な笑顔でした。
自分らしくいられる友人と一緒だと、自然と笑顔になることができるんだなと感じました。
それがきっかけで書いたのがこの文章です。
素敵な友人に出会えたことに感謝し、彼女たちの今後の活躍を祈っています。

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