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楽しかったこと、嬉しかったこと

学生のころから2年4ヶ月働いたお店を先月末に退職した。
退職には様々な背景があり、それに関連して先月起きたできごとの数々は大きな痛みを伴うものだったのだけれども、辛いこと苦しいことだけで2年4ヶ月を塗りつぶしたくはない。
所属していた場所を悪く言うことは簡単だけれども、当時の自分の考えや努力、お世話になった人の想いまでもを否定してしまう可能性もある。
もちろん辛い経験を誰かに聞いてもらうことで救われることもあるのだけれども、決して全て辛いことだったわけではないのだから、せっかくならば楽しかったことや嬉しかったことも書き残しておきたい。

ラテアートの技術を磨きたくて入ったお店。
その前に4年ほど働いたお店でもカフェラテは作っていて、自己流でラテアートの練習はしていたものの思いどおりのものは描けていなかった。
大学の卒業式で袴をはいて利用したとき「おめでとう」というメッセージ入りのアートを描いてくださったことが印象に残っていて、私もラテアートでお客様に喜んでもらいたいと思ったし、有名なバリスタさんのもとでラテアートを学びたいと思ったのだ。

ラテアート云々以前に接客業であり、コーヒー以外にも食事やデザートも提供していて、店内の席数もメニュー数も多かったので、バリスタになるまでに覚えるべきことが多く時間はかかったけれども、試験に合格しバリスタになることができた。

バリスタになるのがゴールではなく、むしろスタートラインだと思ってやっていたし、実際そうだった。
ラテアートは想像以上に難しくて、感覚的なものではなく理論を理解した上で積み上げていくものだった。手が思いどおりに動かせなくて「違うそうじゃない」と言われつつも教えてもらえて嬉しかったし、少しずつ描けるようになるのが楽しかった。

前の店長が開業のため退職して店長を引き継いだ。
慣れないことに戸惑いつつも、精一杯仕事をした。失敗したことも多く反省もしているけれども、得たものがたくさんあるから短い期間でも経験させてもらえてよかったと思っているし感謝している。支えてくれる人や応援してくれる人がいたから頑張れたのだと思っている。

楽しかったこと、嬉しかったこと。
思い返せばたくさん笑ったし、たくさん心温まるできごとがあった。

「おすすめはなんですか?」と聞かれ、気分やお好みを聞いて一緒に飲み物を選んで、帰りがけに「おいしかったよ」と声をかけてもらえたこと。

バリスタになる前、「練習始めるよ」とエスプレッソマシンを触らせてもらったこと。エスプレッソのことを詳しく教えてもらって、コーヒーの世界がさらに広がった気がしたこと。

バリスタになって初めて提供したカフェラテを飲んでくれたのが偶然私のInstagramのフォロワーさんで、退勤後に投稿を見て感動したこと。

入りたての学生の子と休憩が被ったとき話しかけたら、カフェに行くのが好きという共通点が見つかって、頻繁にカフェの話をするようになったこと。

大学院を辞めてカフェで働こうと決めたときに、「好きっていう気持ちがいちばん!」と先輩が背中を押してくれたこと。

たまたまお冷のピッチャーを置いている場所の近くにいて(基本セルフサービス)、お客様がお冷を取りに来たので注いで渡したら感謝されたこと。他にも些細なことで「ありがとう」をたくさん言ってもらえたこと。

発注などの業務を任せてもらって、できる仕事が増えて店舗運営により深く関わっていると実感したこと。

苦手だったキッチン業務、回を重ねるごとに一緒に入っている人と協力して動くことができるようになって楽しくなったこと。

後輩にアドバイスしたら後日実践してくれて、教わった通りにやったらできました!と言ってくれたこと。

常連のお客様に「いつもありがとうございます」と言ったら、「こちらこそ、いつもおいしいコーヒーをありがとう」と言ってもらえたこと。

ラテアート動画を見すぎて夢にも出てきて、翌日描いてみたら自分でも驚くくらい綺麗に描けたこと。

「あんたが来てくれて、よかったよ」
どんな話の流れか忘れてしまったけれど、前の店長がそう言ってくれたこと。

偶然なのだけれど、落ち込んでいるときによく友人がお店に遊びに来てくれて、仕事を頑張ろうと思えたこと。

同い年の後輩と一緒に遅番だと、帰り道よく改札の近くで立ち話をしていたこと。

よく話しかけづらいと思われてしまうので、わざと冗談を言って他のスタッフが笑ってくれていたこと。

難しいアートを練習してやっとのことで描けるようになって、それを提供したらお客様が「綺麗!」と言ってくれているのが聞こえたこと。

抹茶が好きなので、抹茶の味をしっかり感じられるフローズンを作りたくて、納得がいくまで試行錯誤して完成させて、それが大ヒットしたこと。

前の店長が作ってくれるまかないが大好きだったから、私もまかないを作るの頑張ろうと思い工夫したら、おいしいと言ってくれたこと。

余裕があるときに、凝った動物のアートを描いて提供したらお客様がとても喜んでくれて、帰りがけにありがとうございましたと言ってくれた上にInstagramにも投稿してくれていたこと。

休業中、時間があったので前から興味があったお金の勉強をしたら休業明けの仕事にとても役立ったこと。スタッフ向けにレジ締めなどの内容も盛り込んだ資料を作ったら分かりやすいと言ってもらえて、お店全体のお金のミスも減ったこと。

ギフトで悩んでいるお客様がいて、イメージを聞き、商品の説明をしながら内容を決めて、満足いただけたようで嬉しそうに帰ってもらえたこと。

スタッフの子たちのバリスタのトレーニングをする立場になって、楽しそうに練習したり、熱心に話を聞いて努力したりという姿を見ることができたこと。上達して喜んでいると私も自分が描けるようになったとき以上に感動したこと。試験は点数をつける私も緊張したけれど、合格したときは達成感があったこと。

本当に私は、幸せだった。
常に向上心を持って努力したという自信はあるけれども、それ以上にお客様やスタッフに支えられて成長した2年4ヶ月だった。

ラテアートが上手になりたくて入ったので、カフェラテを作るのは楽しかったし自分が描きたい柄が描けたら嬉しかったけれど、それを超える喜びを運んできてくれたのはお客様や一緒に働いているスタッフだった。

もちろん職場の人間関係で悩んだことはあるし、お客様との接し方も難しいと感じたこともある。そんなことが些細なことに思えてしまうくらい、楽しいことや嬉しいことがあった。

あまり元気の出ないときでも、出勤してスタッフと会えば自然と明るい気分になることができた。常連のお客様の顔を見て安心することがあった。
スタッフとのちょっとした雑談や、退勤後の唐突なLINEスタンプの送りあい(目の前にいるのに)でさえも、私の元気の源になっていた。

失敗したことも、衝突したことも、傷つけたことも、傷ついたことも、悲しかったことも、苦しかったことも、辛かったことも、決して消えることはないし、今後に生かすべく背負っていく。
それと同時に、楽しかったこと、嬉しかったこと、面白かったこと、心を動かされたこともたくさんあったのだから、心の支えにしていきたい。

たくさんの感謝の気持ちを込めて。

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