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すずの暴露 中編 「貢ぐ男」

 



 すずの予感は的中した。




 次の月、またその次の月も田村はすずを指名してきたのだ。





 すずは自分のサロンを開く為にメンズエステで働いていること、女性用エステサロンでも働いていること、彼氏はいないことなど、ほとんど嘘で塗り固められた身の上話を田村と話した。



 ただサロンを開くためというのは少なからず嘘ではない。


 18歳から21歳までの3年間は本当に女性用エステサロンで働いていたし、お金があればエステサロンを開きたいのも事実だ。




 だがなぜ本当のことを言わないかというと、ただ知られたくないからだ。




 プライベートな話は嘘を言うのが一番。



 それはセラピストとして経験した2年間で培ってきた処世術だ。






 だがその話を本気で信じているらしい田村は、頑張ってお金を貯めている良い子という風にすずを見ているらしい。



 『俺にできることがあればなんでも言ってね』などと言うようにもなっていた。













 四回目、



 予約時間は480分(8時間)にまで伸びていた。







 その日、田村は会った時から少し落ち着かない様子であった。




「なんか今日、田村さんいつもと違う気がします…」




 そうすずが言うと、田村は意を決した様子で「これ!」と小さなリボン掛けされた箱を差し出してきた。




「これ、すずちゃんの為に選んだんだ」




 差し出された箱を受け開けると、ピンクとブルーの石がついたネックレスが鎮座していた。



 (なんだ「4℃」じゃん。こんな子供っぽいものいらないよーっ)



 すずは本気で残念に思いながらも、グッと堪えて満面の笑みを作った。 





「わーっ、可愛い! 田村さんって私の好み分かってるんですか!? すごいですーっ!」




 大袈裟にはしゃいでみせると田村はほっとした様子を見せた。 




「喜んでくれてよかった。要らなければ全然捨ててもいいからね」




「そんな捨てるだなんて!勝負の時につけていきます」



 すずは得意のファインティングポーズを作って、田村に笑いかけた。




 すると田村はまたニヤニヤした表情ですずを見るのだった。






 こんなものをもらっても何も嬉しくない。


 それよりこれを買ったお金をチップでくれる方が最高に嬉しいのだが、田村にはそんな思考はないのだろう。




(後でメルカリで売ろっと)



 そう思いつつも、喜んだふりをすずは続けた。










 それからと言うもの、田村は会う度にプレゼントを渡してくるようになった。



 指輪やバッグ、財布などをオンラインで買ってくるらしく、どの変がすずに似合うと思ったのか、と言うことを細かくプレゼンしてくるのだ。



 すずからすればもらうもの全てが、20代中頃になる女性が持つようなものではなく大学生が好むブランドばかりで、持って歩けるような代物はひとつもない。




 全く嬉しくない物ばかりだが喜んでいる演技をして、田村の長い演説を毎度乗り切っていた。






 が、それと同時にすずはだんだん田村のことが怖くなっていた。





 田村が自分を好みであることに最初から気づいていたし、リピートに繋げるために彼が欲しい言葉や好きそうな仕草を演出してきたが、会うたびにどんどんとすずに対する田村の気持ちが大きくなっているのを薄々感じていたからだ。



 それはプレゼントという形で今は出されているが「付き合おう」などと言われた日には「はい」という気などサラサラないので、そこでリピートは止まってしまう。




 ロングの予約はとても疲れるが、田村はマッサージしなくていい客で、金払いも悪くないのでこのまま店の客として続けばとてもありがたいのだが、田村に『客と嬢』という関係性が理解できているとは到底思えなかった。









 ある時、いつもの様に田村が滞在しているホテルに呼ばれ他愛のない話をしていると、独り言の様な小さな声で田村が言った。




「あげたやつ、気に食わなかった?」




不意をつかれた言葉に驚いてすずは一瞬固まった。





「えっ、どうしてですか?」




 どんな心理での発言なのかを思考しながら問いかけてみる。




「だって、ネックレスもバッグも持っているのを見た事ないからさ。もしかして嫌いな物をあげちゃったかなって思って」




 田村は少し不貞腐れたような表情ですずに言った。




「そんなことないですよ。お仕事に着けていくと、なくしちゃったり汚しちゃうかもだから……」




(ていうかメルカリで売ったよとか言えない)




 すずはそう思いながらもなんとか続ける言葉を考えていた矢先、すずの言葉を待たずに田村が言葉を続けた。




「そっか。じゃあさ、今度一緒に夜景クルーズに行かない? 横浜から出てるんだけど、素敵な夜景をすずちゃんと見たいな」




 冷や汗が出た。



 これはプライベートの誘いだろう。



 すずにとって友達ではなく客とプライベートに会うなんて、なんのメリットもない。



 それどころかお金にもならずマイナスでしかないじゃないか。




(なんでプライベートで会えると思ってるのこの人。距離感間違えてるの気づいてよ)




 すずはそう思いつつもダメもとで、店で予約をした時間に会うという流れに持っていくことを考えた。



「いいですね! じゃあ、その時に頂いたものを付けて行きますね」




(もう手元にないけど、大事にしすぎて着けられなかったとか言えば誤魔化せるでしょ)



 すずは田村が好きそうないつもの可愛い笑顔を作って答えた。
 



 すると田村は前のめりになって、






「じゃあいつにしよっか?」




 と、聞いてきた。



 きた!と内心思いつつ、すずは続けてこういった。




「そうですねー、じゃあ来月の週末にしましょう! いつも20時過ぎに呼んでいただくことが多いですけど、その時はちょっと早めの夕方から出勤しますね! そしたら夜景見るのにいい時間になると思います」




「え……。あ、そうだね。じゃあ夕方から呼ぶよ」




 田村は少し残念そうに見えたが、店の予約時間に会うことを了承した。




 すずは小さくガッツポーズを取って、「楽しみですー」と田村に告げた。

 続く....

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