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ユーザー佐藤の暴露 後編 「パネマジと涙の連敗」


次の日。



佐藤は予約時間の1時間前に、店の人に言われた通り電話をかけた。




「すみません。今日12時に予約をしてる佐藤ですが.....」



「確認の電話ですね。ありがとうございます。これからショートメッセージを送るので確認してください。指定の場所につきましたらまた連絡してください」



 電話を切ってからものの1分で、スマホにメッセージが届いた。

 そこには住所と予約時間が記載されており、時間ちょうどに来店するよう注意が促されていた。



 佐藤は予約の20分前には指定の場所に着いてしまい、ソワソワしながら辺りをさまよい時間を潰した。



 振り返ると、この待っている20分間がメンエスデビューで一番の楽しい時だった。








 時間になり、ロビーでインターホンを鳴らすと無言のままエントランスのドアが開いた。

 エレベーターに乗って、指定の部屋へ行き、ドキドキしながらインターホンを鳴らした。






 扉が開いた瞬間、ツイッターの写真とはまるで別人の女性が立っていた。


(しまった。パネマジだ!)


 アプリで写真加工できることなど、頭からすっぽりと抜けていた。




 それならば、せめて施術はと期待したが、それも裏切られた。


 密着もなく、大して過激なマッサージでもなかった。

 何も起きることがなく、大して会話も盛り上がらず90分の施術は終わってしまった。




(やっぱりネットに書いてあることは信用してはいけなかったんだ...)


 どうにもできないこの悔しい思いを、佐藤は家に帰ってから口コミサイトに自分が受けた実体験をそのまま書き込みした。

 そうすると、少しだけ怒りが収まるような気がしたのだ。



 そして、次のメンズエステに向けて情報を収集に勤しんだ。


 さらに、ツイッターのアカウントを開設し、他のメンズエステ客のアカウント(以降、客垢)をたくさんフォローして、情報交換することにした。

 プロフィールには『メンエスに通いはじめて30代のおっさん。情報交換しましょう』と書いてみたところ、案外セラピストからもフォローされる。

 女性に関わることがほとんどない日々を過ごしていたから、今が一番女性と繋がりを持っている気がした。







 翌月



 給料日になり、佐藤は再びメンズエステへ行った。

 今回はツイッターと実物が違わないように、顔を全部だしている子はアプリで加工している可能性が高いので、一部だけ出している子に絞った。

 さらに、セクシーな服装やポーズを取っている子という条件も付け、客垢に教えてもらったセラピストの中から厳選した。




 そして、佐藤は挑んだ。



 厳選しただけあって、見た目もスタイルも悪くない。


 これは当たりかもしれない。


 前回は初めてで緊張していたためか、振り返ってみてもガツガツしていた気もした。


 今回は客垢に教えてもらったように、触ることもなく、抜きを要求することもなく、紳士に振る舞った。



 そして最後にそれとなく、



「これで終わり?」



 と、セラピストにきいてみた。



「そうですけど」



 セラピストは気怪訝そうに答えただけだった。 










 佐藤は帰宅してから、


『教えてもらった通りにやったけど、何も良い思いをさせてもらえませんでしたよ!』


 とセラピスト選びを手伝ってくれた客垢の一人に愚痴を漏らした。


 しかし、


『セラピストにも気分があるから、たまたま今回はついてなかっただけ。いつか良い思いが出来ますよ』


 と、他人事のように言われただけだった。







 次の日、しかたなく佐藤はメンズエステのことを話してくれた上司に相談してみることにした。




「どうすれば、メンズエステで良い思いが出来るんですか?」



 と、率直に訊ねてみると、




「俺のオキニは色々してくれるで。お前は押しが足りひんねん」



 関西出身の上司にどぎつい方言でそう言われた。



「そうや、来週いつも行ってる店に行こうかと思ってんねんけど、一緒に行くか?」


佐藤は二つ返事で応え、その上司の通っている店に行くことにした。





 そこで出会ったセラピストは結構歳がいってそうだったが、施術はそれなりに上手で、たくさん密着してくれた。

 サワサワとしたタッチや、ぐりぐりと鼠蹊部周辺を責められてとても気持ちよかった。



 しかし、結局抜きはなかった。



 本来、メンズエステというのはこういうもんだとわかっていながらも、生殺しに歯がゆさを感じる。

 だったら最初から風俗エステに行けばこんな思いもしなくて済んだかもしれない。


 計算してみると、一か月半で約六万円をメンズエステにつぎ込んでいた。


 安月給のサラリーマンとしてはかなりの痛手だった。


 もうメンズエステに淡い期待を寄せるのはやめよう、佐藤はそう決意した。






 それからはメンズエステに行かなくなった。


 ただ、通勤の電車の中で、メンズエステの口コミサイトを見る癖はやめることができなかった。




 肩肘張った決意は案外脆いもの。


 それから数ヶ月後、結局、佐藤はまたどこかのメンズエステに挑んでいる。

 ユーザー佐藤の暴露 〜完〜


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