見出し画像

【レビュー】浜学園 小6 公開学力テスト 2024年7月 国語

(「浜学園 小6 公開学力テスト 2024年7月 国語」についてのレビューになりますので、お手元に試験問題をご用意の上でご覧下さい。なお、全体の分量は約3200文字です)

 浜学園の小6の公開学力テストは、今年に入ってから論説文の難度が高くなる傾向が続いており、全体的に見ると正答率の低い問いが大問三に集中しています。7月のテストも例外ではなく、大問三で高得点を狙うことが難しくなっていました。そのため、大問二の物語文で点数をしっかりと取りきっていないと合計得点が著しく下がってしまう恐れがあり、特にケアレスミスをしやすい受験生が苦しめられたのではないかと推測されます。この数ヶ月、点数が伸び悩んでいるという受験生は、大問二でもったいない取りこぼしをしていなかったかどうかを改めて見直してみましょう。
 さて、ここからは各大問の設問をチェックし、ポイントになる問いや興味深いところのある問いについて解説していきたいと思います。
 大問二は(1)のみ正答率が39%と際立って低く、他の問いと比べて足元をすくわれた受験生がやや多かったようです。今回の大問二では、(1)について特に取り上げて難易度が高くなった原因や考え方を振り返っていきます。
 まずは、基本を忠実に守って選択肢を調べてみましょう。アは「子どもらしい嫌がらせ」「微笑ましい」がこのあとに続く「菜摘」と「佐々木華」のやり取りと合致しておらず、不自然な説明と考えられます。そして、イは「軽蔑」「腹立たしい」が傍線部のセリフから伝わってくる様子と合っていないため、これも除外できます。アとイについては、選択肢を点検する段階ですんなりと消せるようにしておきたいですね。
 問題はウとエのどちらになるのかという点ですが、実際に受験生の答案を見ていくとエを選んで×になっているケースが目立ちました。確かに、傍線部の言葉からは「感心する」等の心情が読み取れそうにも感じられます。それに加えて、線②の直後に出てくる「せこいことするなあ」がエの「ずるがしこさ」という言い方に通じるとも考えられるため、エを答えとしたくなる気持ちはわからなくもありません。一方、ウはどうかというと「おかしく感じる」が線①の次の行にある「クスリと笑った」と対応し、さらには「うんざりする」が線②の2行あとにある「小さくため息をつくと」と結びつけられるので、こちらが正解と判断するのも筋が通っていると言えそうです。
 このように見ていくと、ウもエも本文の言葉から根拠を説明できそうに思えることがわかります。あるいは、ここに引っかかってどちらにするべきか悩む受験生が続出し、結果的に正答率が低下することになってしまったのかもしれません。
 それでは、(1)はどうしたら正解に持ち込めるのでしょうか。ポイントは「説明としての十分さ(妥当性)」を判定するという視点です。押さえておきたいのは線②から線③にかけての場面であり、この中で「菜摘」は「佐々木華」にやり返すような言動を取っています。それをもとに考えると、線①の時点で「菜摘」の心の中には嫌がらせに対するマイナスの感情があったはずと見るのが適切です。しかしながら、よく確かめるとエは「感心する」というプラスの気持ちを表す言葉しか入っておらず、肝心のマイナスの感情についてはまったく触れていないことがわかります。以上のことから、エは線①から線③の場面から読み取れる「菜摘」の心理を十分に説明できていないと見なせるわけです。よって、ここは「菜摘」の気持ちに適切に言及していると思われるウを選ぶということになります。
 実戦的な観点から見た場合、テスト中の限られた時間で選択肢同士の細かな差異について深く考えている余裕はないでしょう。従って、重要になるのは「不適切な選択肢に違和感を覚える感覚」を身につけておくことだと言えます。そして、そのような感覚を鍛えるための練習台として(1)はうってつけです。解説で示したような要領でウとエの違いを言語化していき、エが正解ではないと言える理由を納得して自分の中に取り込んでおくというプロセスを経験しておくと、他の問いを解く時にも「この選択肢は何かおかしい」と感じ取れるようになる可能性が出てきます。
 次に大問三ですが、こちらは(5)以降の正答率が著しく低くなっています。浜学園の公開学力テストは制限時間に対して文章が長く、設問数が多いという特徴が見られますので、(5)からあとの問いは時間が足りなかったという受験生も多かったかもしれません。実は設問をそれぞれ見ていくと、正答率が低い割りにはそれほど難しくないと言える設問が複数ありましたので、時間切れに陥ってしまった受験生はペース配分を一から見直しておきたいですね。
 設問としては、特に(7)をフォーカスしてみようと思います。この問いは少し巧妙なところがあり、理解しておくと思考の幅を広げることにつながります。
 選択式で答えを決める時には根拠探しの徹底が原則ですので、手始めに各選択肢のキーワードと傍線部の前後に書かれていることを比較してみましょう。アは「ネットワーク」「自我」「本当の自分」等が含まれていますが、これらは線⑦の直前の段落にも出てきていますので、単語だけで判断すると本文に根拠があるようにも見えます。これに対して、イは「自分の個性を生みだす」が、ウは「自己肯定感を向上させる」がそれぞれ中心的な内容ですが、どちらも対応する言葉が傍線部の前後には出てきません。そのため、イとウは正解の可能性がかなり低いと考えても問題なさそうです。そして、エは「キャラ」「仮面」「本当の自分」等のキーワードが線⑥の次の段落にも出てきており、アと同様に本文から根拠が説明できるように感じられます。
 この時点でどうやらアかエらしいということはわかってきますが、まだ決め手に欠けますのでもう少し文章を調べる必要があります。カギは線⑦の6行前にある「ならば、どうすればよいのか」です。これに目をつけた上でさらに一行前に戻って「この矛盾のために、私たちは思い悩み、苦しんできた」という一文に着目し、線⑥から線⑦にかけての説明を整理してみましょう。そうすると、「①人間は、『本当の自分(自我)』と日常生きている時に表れてくる複数の人格の間に矛盾を感じて思い悩み、苦しんできた→②その苦しみを解消するのはどうしたらいいのか→③『分人』という考え方を導入すればよい」という文脈が見えてきます。これを逆にたどっていくと「③は①のような悩みを解決する効果がある」という読み方ができるとわかってくるので、正解はエと確定します。
 (7)の厄介なところは、設問文が「分人」という考え方を導入することによる効果を問う形になっている点です。この問いを正面から受け止めるなら、本文のどこかに効果についての説明が書かれていて、それを根拠にすれば答えがわかるのではと考えられます。しかし、実際には「分人」を導入することによる効果を直接的に説明している箇所がないため、確信を持って答えを決めるのが難しくなっているわけです。この問いはアのような引っかけの選択肢が用意されている上に、「問題の提示→解決策の提案」の流れをひっくり返して「概念の導入→概念の効果」と読み替えないと正解に気づけないという二重構造が隠れていたことを押さえておいて下さい。
 今回の浜学園の公開学力テストは工夫の凝らされた問いが含まれており、あっさりとは解きこなせないように作り込んであったと評価することができます。ですが、全ての問いが簡単には正解できない込み入った作りをしていたというわけではありません。大切なのは大問二の(1)や大問三の(7)のような難問を上手にかいくぐり、時間配分に気を配って「ここは取れる」という問いを選び出しながら答案を作り上げようとする姿勢です。そうした姿勢を身につけることこそが、入試本番で確実に合格点を狙っていくための大前提となるという意識を持ってしっかりと訓練を重ねていきましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?