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【レビュー】日能研 小6 公開模試 2024年6月30日 国語

(「日能研 小6 公開模試 2024年6月30日 国語」についてのレビューになりますので、お手元に試験問題をご用意の上でご覧下さい。なお、全体の分量は約3000文字です)

 今回は、2024年6月30日に実施された日能研の小6対象の公開模試について解説を行ってみたいと思います。
 日能研は関東圏の学校も視野に入れたテストを作成する傾向があるため、関西圏の一般的な入試問題と比較すると特に物語文がやや長めになりがちという特徴が見られます。今回も分量の面で少し苦戦した受験生が多かったらしく、大問二の問六以降の正答率が随分と低くなっています(大問二の問六は31%、問七-1は32%、問七-2は2%、問八は23%、問十は9%という具合です)。しかし、正答率が極端に低かった設問をそれぞれチェックしてみると必ずしも難しいものばかりではなく、時間さえあれば解けたと悔しい思いをした受験生もいるかもしれません。こればかりは日能研の公開模試ならではの現象でもあるため、関西圏の受験生は実際の入試との違いを意識した上で解き方をきちんと再確認し、自分の中に取り込んでおけばいいという気持ちで復習しておきましょう。特に大問二の問八や問九は選択式における定番とも言える考え方や手順が含まれており、しっかりとものにしておくと入試でも役に立つ可能性が高いと言えます。
 では、ここからは今回の公開模試で出題されていた2つの記述を取り上げ、考え方をチェックしていきましょう。
 まず、大問一の問九-2は傍線部の前後に書かれていることを手がかりにして、中世と近世では人々の生活にどんな違いがあったのかを説明することが求められています。この問いは傍線部の直後に違いを説明する一文が続くため、一見するとそこをそのまま書き写せば正解できるように思えてしまいます。しかし、いくつかの採点結果を見てみる限り、傍線部の直後をただ書いただけの答案には点数が与えられていないようです。ここはただ直後の文を書き写すだけでは駄目なのではないかと勘づき、ひと手間かけにいけた受験生ほど一歩前に出ることができたと考えられます。
 傍線部の直後の一文から要点を取り出すと、「中世の人たちはまだまだ囲いが穴らだけの中に暮らしていた」⇔「近世以降の日本人は完全に城郭の中に住むようになった」という対比が見えてきます。ポイントは「囲いが穴だらけ」と「城郭の中に住む」がある種の間接的な表現であり、それぞれが一体何を意味するのかを説明する余地があるという点です。もしこれらの言葉をそのまま書いたとしたら、「囲いが穴だらけ」「城郭の中に住む」とは要するにどういうことなのかとさらなる問いかけができてしまうため、入試本番でも隙のある答えと判定されてしまうでしょう。
 この記述を正解に持ち込むためには「囲いが穴だらけ」「城郭の中に住む」の言いかえ方が重要になりますが、その手がかりになるのは傍線部に至るまでの間に筆者が何の話をしていたのかという点です。今回の大問一は文章の冒頭から「都市」と「自然」という言葉が何度も出てきており、その関係が事細かに説明されています。中でも問九-2と深く関わっているのは空欄Ⅲのある段落であり、その中で筆者は「都市の中はすべてが人の意識でコントロールできる世界→外にいくと意識でコントロールできない部分が増える→最終的に完全にコントロールできない世界である自然が出現する」と述べています。これが頭に入った状態で「囲いが穴だらけ」「城郭の中に住む」を見直してみましょう。「囲い」や「城郭」とは要するに「都市(人間の生活空間)」と「自然」を仕切るものだととらえておくと、「囲いが穴だらけ→自然と都市(人間の生活空間)が完全には仕切られていない→自然と人間が共に生きる」「城郭の中に住む→自然と都市(人間の生活空間)が完全には仕切られている→人間が自然から切り離されて生きている」という言いかえができてくるわけです。あとはこれを踏まえて答えを組み立てていけば正解と評価されることでしょう。
 大問一の問九-2は「間接表現をそのまま用いないで的確に言いかえる」という視点と、筆者の説明の要点を正しく把握していることの2つが試せるように作られています。その意味では出題者の計算がしっかりと行き届いており、記述の書き方と文章の読み方の基本を両方同時に学べる質の良い記述になっています。
 続いて、大問二の問四も見てみましょう。こちらは六十字以上八十字以内という字数が指定されており、なかなかボリュームのある長文記述です。ただ、日能研のテストは百字くらいの記述がしばしば出題されますので、それを考えるとあまり意外性は感じられないかもしれません。また、今回の記述は傍線部の直後にほぼ手がかりがそろっているため、「何を書いたらいいか」で迷わされることはないはずです。では、どこで差がつくのかというと「どう書いたらいいか」という部分になってくるでしょう。注目したいのは、問いの中に「なぜそれを提案するのかも具体的に分かるように」という指示がわざわざ書かれていることです。ここから「理由説明の的確さ次第で点数が変わりますよ」という日能研側のシグナルを感じ取り、答案を作り上げられたかどうかで点数が大きく変わったであろうと予想されます。
 答えを書き始める前に押さえておきたいことは、線②のある段落に出てくる「解決できるし(2行目)」と「心配もしなくてもいい(4行目)」という言葉です。ここに含まれている「し」と「も」に目を向けて並列の構成をとらえ、答えに盛り込まなくてはいけない理由の数を見抜けるとかなり文を組み立てやすくなります。そこで、改めて段落を見直して並列関係になっている要素を取り出してみると、「沈黙の時間ばかりが過ぎていく事態は解決できる」「くじで決まったら不運な当選者も諦めがつく」「学級員に立候補したら「何こいつ張り切っちゃってんの?」と思われるのではないかと心配する必要がなくなる」の3点が答えに必要だと分かってきます。あとはこれらを理由として説明しつつ、「あみだくじで学級委員を決めるという提案をする」等の言い方で締めくくればいいと考えれば答えの見通しが立ってくるわけです。
 ただ、ここで問題になるのは取り出した3つの要素を丸ごと書き写すと長くなってしまい、解答欄に収まらないという点です。恐らく、この段階でとっさにいずれかの要素を思いきって短く言いかえる等の工夫ができたかどうかが、問四における点数の良し悪しを決定づけたはずです。今回の記述は「何を書くか」というところには敢えて力点を置かず、「並列関係に注目して材料をそろえる」「必要に応じて本文の言葉を素早く言いかえる」といった力を試すことに特化した作りになっていたと言えそうです。これは「自分の現状を正確に知るための指標として利用できる」ということでもありますので、つまずいた受験生は問いの狙いをよく理解しながら復習を行い、弱点補強のきっかけをつかんでおきましょう。
 今回出題されていた2つの記述は出題者側のはっきりとした意図が込められており、学ぶところの多い問いとなっています。どちらも筋道を言語化すると複雑に感じられるところもありますが、入試ではこのような思考を瞬間的にできるようにしなくてはなりませんので、本番に向けてコツコツと練習を重ねていきたいものです。

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