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心あたたまる瞬間

偶然、最寄駅のエレベーターで乗り合わせた、かわいらしい姉弟の話。

小さな男の子の手を、しっかりと握りしめた一人の少女が、エレベーターが来るのを待っていた。

何気なく私と目が合うと、人懐っこい笑みがこぼれる。
マスクをしていたので、その表情全ては見えないが、とても感じがよく、私もにっこりと会釈をする。

「これから弟と、隣の駅まで行くんです」
「えっ?2人だけで?」

姉弟の近くに立っていた老婦人が、てっきりおばあちゃんなのだろう、と勝手に思い込んでいた私は、驚いて思わず、そう口にしていた。

ほっそりとした身体に、すこし大きめのジーンズ、パーカーを羽織った少女の背丈は、決して高くはなく、華奢で少し頼りない感じもする。
歳を尋ねると、少女は10歳、一緒にいる弟は4歳とのこと。

そして彼女の話によると、もう一人、1歳の弟がいるという。
どうやらその一番下の弟が熱を出し、母親は弟に付き添っているようだ。

隣駅に住む祖父母のところにでも行くのかな、と思い、尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「弟が電車が大好きだから、乗りに来たんです」

なんと😲
おつかいでも、用事でもなく、弟のリクエストに答えるために、ここにいる、と言うのだ。

その話を聞いて、妄想力豊かな私の脳内劇場が開幕。
…もしかしたら、母親と、もう一人の弟と4人で、電車に乗るはずだったのかもしれない。
ところが一番下の弟が熱を出し、母親は一緒に行けなくなってしまった。電車に乗るのを楽しみにしていた弟は、泣きべそをかいたかもしれない。
そこに、しっかり者のおねぇちゃんが登場。
お母さん、大丈夫、隣駅まで2人で行けるよ、と。
脳内妄想終わり。

何より感心したのが、私の質問に対する少女の受け答えが、実にさわやかで、嫌味がないのだ。

弟のために自分が仕方なくやってあげてる、というニュアンスが微塵も感じられず、実に自然体なのだ。

お母さんができないなら、私がやるのが当然、といった雰囲気。
電車に乗り込む時も、弟の足元を気遣い、優しく声をかける。

「出口を、まちがえないようにしなくちゃね」

と自分に言い聞かせるように呟き、弟の手をぎゅっと握りしめる姿に、なんだか胸がキュン、としてしまう。

しっかりしているように見えても、色々な不安もあるだろうに、さまざまな葛藤と闘いながら、お姉ちゃんであろうとする、いじましい姿。

やがて、電車は隣駅に到着。
少女は弟の小さな手をしっかりと握り、ドアに向かって歩き出す。ふと、くるりと振り返り、なにかを探すように視線を巡らせ、私を見つけると、微笑んで軽く会釈をしてくれた。

最後まで、爽やかで感じの良い少女の振る舞いに、なんだか突然、自分が恥ずかしくなる。

相手のために、アレをやってあげた、コレをやってあげたと得意になり、そんな態度が日頃、表に出ていないだろうか。

あの少女のように、自分のすべきことを淡々と受け止め、さらっとこなす。

そんなさわやかな大人になりたいものだ、と心に誓った。


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