学芸大学の新しいラム焼肉屋とデルトラ・クエスト

東京東横線学芸大学駅では、昨今おしゃれな飲食店がどんどんオープンしている。”港区女子”という言葉を流行らせた某グルメ雑誌がいかにも好きそうなラム専門の焼肉屋、まさにそのグルメ雑誌に特集されたクラフトビアバー、そして今度は海鮮系のスタンド居酒屋ができる。どれも若者を集めそうな煌びやかなお店だ。

それらのお店を外から眺めながら、僕は小学校と中学校で同級生だったある女の子のことを思い出す。
その女の子はとても頭のいい子で、小学生とは思えないような落ち着きと、知性を感じる立ち振る舞いで、みんなから一目置かれていた。ような気がする。誰も言葉にはしなかったけど、心の中でその女の子のことは誰もが認めている、そんな子だった。

ある日、僕が教室で読書をしていると、その女の子から声をかけられた。
「何読んでるの?」
「デルトラ・クエストだよ」
「あーそれか。あんまり面白くないよね」
「そうかな?面白いよ」
「カバーが面白いだけだよ。そんなにキラキラさせて。1冊800円するけど、全部カバーの値段なんだから。騙されちゃダメだよ」

面白いと思って読んでいたものを貶されたけど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。それより気づかされた、という気持ちの方が強かった。
そうかこれはカバーで買ってるのか!カバーに値段がついているのか!
小学生の僕にはそんなことも大きな気づきだった。

物事の本質にお金がかかっているものを楽しんだ方がいいよ。そんなことを小学生の時分に教えてくれたその女の子はもう亡くなってしまったけれど、一体どんな知的な大人になっていただろうか。学芸大学の煌びやかなお店を見てなんと言っただろうか。「おしゃれなだけだよ」そう言っただろうか。

そんな想像をしながら、僕はオープンしたてのギッラギラなラム焼肉屋の予約電話番号を探すのでした。

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