オーバートレーニングしたらミニマリストになった話
2024年2月某日、私はとても焦りを感じていた。
まだ今週のノルマを達成していないからだ。
定時に会社を飛び出すと一本でも早い電車に飛び乗った。
満員電車に揺られながら帰宅後のスケジュールを何度も考え寝るまでの時間をそのとおりに行動できるか不安だった。
最寄り駅に到着し足早に改札をでると併設しているスーパーに寄り五個入りの大福とバナナを手にとり会計に走る。
鞄につめながら時計をみると7時20分、走り歩きで家に着くと7時30分
バナナを二、三本を腹に入れ着替えて飲み物、タオル、扇風機をセット。
スマートトレーナーにセットされた自転車にまたがり本日のトレーニングを開始する。
今日は残業もなく8時前にトレーニングを開始することができた。
今年は異例の暖冬だがそれでも実走に出るには準備が面倒すぎる。
自転車乗りが皆“儀式”と言うほど冬に自転車の準備は本当に大変なので私も室内でローラー台メインになりつつあった。
3時間ほど様々なzwiftのメニューをこなして脚がもう動かなかったし何本ものタオルが汗を吸わないほど濡れていた。
時計を見ると11時前なのでactivikeのプロテインを胃に流し込む。とてもまずい!!
純粋なactivikeさんのプロテインはとても美味しいご褒美抹茶ドリンクだったがトレーニングに良さそうな添加物を大量に入れたものは飲めたもんじゃなかったが良薬口に苦しと思い何ヶ月も続けていた。 ぜひ皆さんも飲んでもらいたいのでメニューを記載しておく。
activikeのプロテイン付属のスプーン2杯、コスパメーカーのプレーンのホエイプロテイン大さじ1、
コスパメーカーのソイプロテイン大さじ1、クレアチン7g、ベータアラニン5g、
シナモン大さじ1、ヒハツ大さじ1、ビーツ粉大さじ1、業務スーパーの粉末青汁2袋
スペシャルプロテインをキメてからシャワーを浴びて自炊してマッサージガンをあてて一息つくと12時はとっくに過ぎていた。
睡眠がトレーニングに何よりも大事なことはわかっているが気の休まるこのトレーニングと寝る前のわずかな時間が唯一休まる時間だったのですぐには寝ることができなかった。浴槽に浸かったほうが疲れもとれるのだろうがトレーニングの時間を削ってまでゆっくり風呂に入ることはできなかった。
翌朝もぎりぎりまで寝て重たい体をひきづって朝7時30分に家を出る。このように平日は毎日寝るまであっという間に流れていった。
しかしこの筋肉痛と疲労感がとてつもない充実感と自信をもたらしていった。
週末はロングライドに出かけ走行距離とTSS(トレーニングストレススコア)と獲得標高を稼ぐ作業を黙々と続けていた。
出張や深夜残業も多い仕事なので出張先で深夜や早朝にランニングをしてフィットネスを稼ぐ作業に没頭していた。
昼休みのわずかな時間にもスクワットやジョギングをしていることもあった。
その反面仕事によってトレーニングが普段通りに行えないことが一番のストレスになっていた。
このときの自分はひと月に2000km、獲得標高25000m、週間で450km&TSS 900を目標にしてトレーニングを続けていた。
富士ヒルクライムゴールドを目標に昨年2023年5月からトレーニングを開始してもう10ヶ月。
この一年を最初で最後の大会にして時間とお金とエネルギー、生活のすべてを捧げて取り組もうと意気込んでいた。
毎日のメニューをこなすとインスタグラムに毎日のトレーニングを記載し、あふれんばかりの強強フォロワー様達のトレーニングの情報に刺激を受け、みんなもすごくトレーニングしてるな!自分ももっとやらねばと赤や黄色いグラフの投稿に『いいね』を押していた。
みんな自分以上にしっかりとトレーニングしているので才能もなく弱い自分はもっと周りよりトレーニングしなくてはいけない。毎日が帰ってからのほうが忙しかった。休んでる暇なんて無かった。
2月になっても仕事の忙しさは増していった。連日の出張や残業によってどうしても物理的にトレーニング時間を作れなくなっていたのだった。
私は仕事のスケジュール表を見るたびに落胆し焦りに焦った。『せっかく何ヶ月もトレーニングしてきたのに、このままでは弱くなってしまう』と。
昨今タバタ式等の短時間高強度のトレーニングがもてはやされているが古い人間なので“走ってなんぼ”という自分の中でのプライドと凝り固まった価値観でそういったことも出来なくなっていた。
すると毎週自分に課していた450km TSS900が睡眠時間を削ろうが何しようがどうしてもクリアできなくなってきたのだ。
そのツケは翌週に、最終的には月末に払わざるを得なくなってくる。
毎日どうやって走行距離とTSSを効率よく稼ぐかしか考えられなくなっていた。雪だるま式に膨れ上がった借金に完全に追いつめられ頭を抱えていた。もう3日も自転車に乗れていない,,,, 早朝や夜のSNSにはzwiftのスクリーンショットが溢れ、平日休みの方々の集団練習会の様子やロングライドトレーニングの様子も上がっている。どんどん自分との差が開いているように感じ焦るが何もできない今の状況にイライラも募る。
春のシーズンインも近くなり有名実力者や発信者たちの『効率的なトレーニングメニュー』『疲労回復にはこの運動』『こんな食事やサプリメントがおすすめ』『ヒルクライムにはこのパーツ』などの情報がSNSで発信されいち早く取り入れようと盛り上がってますます熱を帯びていく界隈と何も出来ない自分。 そんな現状況を感じたく無くSNSを見るのも辛くなっていた。
そんな時に急性胃腸炎にかかってしまう。食べることも歩くことさえ辛くて4日間ほぼ絶食だった。
家にキロ単位である粉のポカリだけが友達だった。
歩けないほど胃が痛いが、トレーニング再会しないと弱くなってしまうの一心で涙目で二日目にローラー台に乗るも全く力が入らずフラフラになっただけでトレーニングにならなかった。そりゃそうだ、当時は体調よりトレーニング優先で本当に頭がおかしかったんだと思う。
だが当時の自分が考えていた事は数日でこんなにも身体がダメになって(弱くなって)しまうものかと落胆した。
寝ても覚めても横になってもなにをしてもどうしても辛い日々が続いた。でも寝る事だけが痛みにもこの現実からも逃避できる唯一の方法だった。
何もできない無駄な数日が過ぎ、今月はトレーニングの借金が絶対に返せないことがわかった。
寝てるのか起きているのかわからないままボーッと天井を見上げ『食事や健康に人一倍気を遣っていたのにこのざまか』と情けなくなった。
これまでの毎日はなんだったのだろうか。
何が腸内環境だ!
何が消化吸収だ!
何が栄養学だ!
何がグルテンフリーだ!
何がアクティブリカバリーだ!
何が日光を浴びてセロトニンだ!
何がインターバルだ!何がZ2走だ!
何が!!!何が!!! ちくしょう(泣)
これまで自分の身体のために最大限のケアと課金と気遣いをしてあげていたのにあっさりと裏切られた気分だった。
富士ヒルクライムゴールドを目指すにはあまりにも自分の身体はもろくて弱過ぎたのだ。
この時に自分の中でそれまで10ヶ月張り詰めていいたものが崩れた。いや派手に爆散した。
一人で自分の生活を律し続けるこの生活に限界を感じた。
もう少し前には薄々気付いていたかも知れないが人生で最初で最後の大会であること、これまで何ヶ月も人生で一番努力してきた時間を積み重ねてきたこと、6月のゴールが近づくたびに少し未来の自分はもっとやる気を出すだろうと思っていたこと。考えず目をそらしていた。もう少し客観的に自分を見るべきだったと思う。
帰宅しても無気力に何もしない日が数日続いた時にがふと家の中がとてつもなく汚いことに気付いた。
何ヶ月も家では“トレーニングしか”やってこなかったのだから当然だった。脱ぎ散らかした服、トレーニング中に走りながら食べた補給色の包み紙、出しっ放しの工具類、もう何ヶ月も掃除をしていなかった。
目的も無く家に帰ることが久しぶりで何かを始めたかったのでとりあえずで掃除を開始した。
45リットルのゴミ袋がいっぱいになるたびにこれまでの単なる『トレーニングルーム』と化していた部屋が『人の住む家』になっていくのがわかった。
トレーニングのためだけの餌のような食事から少し時間をかけた料理をつくって食べ、ゆっくりお茶を飲んで、出来る限り浴槽につかってゆっくり風呂に入る、十分な睡眠を取る事を何日かするとなんとも言えない人間らしい充実した気持ちになっていった。
これまで不安と使命感から駆り立てられるようにトレーニングする為だけに家にかえっていた事に気付いた。
ついでに言うと週末休みをむかえることがいつのまにか憂鬱になっていた。 高強度ロングライドをして距離とTSSを稼がないといけないからだ。
みんなに置いていかれないように身体にムチを入れる作業を行わないといけない。雨だと少しほっとしていたがzwiftで黄色や赤いグラフ又は青や緑の長いグラフを作り続けないといけない。これはこれで辛い。休日に逃げ場は無いのだ。
ある日会社の先輩になにげなく『そいうえばお前が言ってた大会って6月だっけ?』と聞かれギクッとしたが『実は,,,最近走ってないんですよね、、、』と最近の事を話したら『(辞めても)いいんじゃねぇの。やっぱ少しお前おかしかったもんw』と言われた。この言葉に心の底から救われた。
自転車をやってない先輩だからこそ誰にも言えなかった弱音を全て吐く事が出来た。辛かったら辞めてもいいのだ。これでご飯食べてる訳でもなし、趣味を楽しめなくなったら続ける意味がない。
『トレーニングが辛い』という当たり前で情けなくて恥ずかしくて誰にも言えなかった事を初めて吐き出す事が出来た。気付くと少し泣いていた。
自転車乗りの前では毎日弛まぬ努力をしているalicoさんでありたかったのだ。
曲がりなりにも強豪チームに所属している人間だと示したかったのだ。
フォロワーの皆さんに一目置かれたかったのだ。強いと思われたかったのだ。
今となっては恥ずかしくバカバカしい事だったしそれが一番の力になってここまで強くなれたのも事実であり、
まあこんなに劣等感からの承認欲求でフィジカルが35歳で人生で最高になれた事はとてもよい経験になった。
でもトレーニングを始めた頃はもっとピュアな気持ちで取り組んでいたと思うのにどうしてこんな事になってしまったのだろうか。
答えの無いしくじり先生の講義が開けそうな気がする。 マジで『俺みたいになるな』
・ちょっと練習しただけで富士ヒルゴールドなんて甘い
・なんでもっと休めなかったの?
・もっと気楽に取り組めなかったの?
ここまで読んでいただいた人でこういった無数の意見や疑問が浮かぶだろうけど“うん、十分わかってる。俺には無理でした"しか答えられません。
『究極のちょうどいい』を目指していくことがミニマリズムという事を知ったのはYouTube『様子のおかしいインテリア店』を見てからだ。
物を捨てまくって何も無い部屋にするのが優勝だと思っていたが違うようだ。
部屋の掃除をしながらYouTubeを漁っていたらたどり着いたインテリアのゆっくり解説動画だ。
それから10冊ほどミニマリストの本を読んでどんな事がミニマリストとかシンプルライフなのかがわかった気がする。
どうやら物を捨てまくる行為というより、ノイズを取り払ってよい人生を目指していく思考の事を指しているようだ。
10ヶ月間無理してきた今の自分には『究極のちょうどいい』生活が必要だと感じたので今年度の目標は丁寧な暮らしのミニマリスト自転車乗りおじさんになることにしよう。
長くなってしまいましたがこれからは立ち止まったり、休みながら自分の生活の中で究極にちょうどいい自転車との付き合い方を無理せず続けていければと思う。
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