思い出のナンパ・・・インコとわたしと父と。
わたしは、インコをナンパしたことがあります。
そして見事成功しました。その思い出をよければ、聞いてください。
中学校からの帰り道、わたしは民家の軒先で、一羽のインコを発見しました。
そのインコは「雨かよ、まいったな」といった様子で、ただずんでいます。
・・・鳥って雨宿りするのかあ。
わたしはふと足を止め、インコの隣に立ってみました。
しかし、インコは動じることなく、空を見上げています。
その姿にグッときたわたしは、姫に仕える騎士のごとくインコの前にひざを折りました。
そして人差し指を向け、「オレンとこ来ないか?(的なこと)」を言いました。
するとインコは、
ぴょいっとわたしの指に乗り、10分ほどの家路を、共に歩いてくれたのです!
よほど私の指、または傘が気に入ったのでしょう。
インコはすぐ家族に受け入れられました。
なぜならこのインコ、ものすっごく人懐っこかったからです。
指に乗り、肩に乗り、ほおずりしてくる。
さらには話しかけると、ギュルギュル鳴いて返事をしてくれるのです。
特に夢中になったのは父でした。
反抗期の娘(私です)と、気の強い妻に囲まれて、きっとストレスを抱えていたのでしょう。
インコを肩に乗せて、一緒にテレビを見たり、会話をしたりして、誰よりも可愛がっていました。
そんな(父にとって)幸せな日々は1年ほど続きましたが、別れは突然に訪れました。
それはごく普通の日曜日でした。
父は寝そべってテレビを見ており、そのかたわらには鳥かごがありました。インコは確か、のんびり餌をつついていたと思います。
そこへ母がやってきて、「空気が悪い!」と言って窓をさっと開けました。
その瞬間、私たちに別れが訪れました!
鳥かごのドア(?)が、ほんの少しゆるんでいたのです。
平和な我が家な一転して、パニックになりました。みんなで探しに飛び出したけれど、当然に見つけることもできず。
その日、私は初めて父の涙を見ました。
うちの父は昔気質で、悲しみの感情を外に出さない人でした。
なので、わたしと母はとても驚きました。家族が思うより、ずっとずっとインコは、父の心に寄り添っていたのです。
すごく悲しかったですが、やがてわたしは、これでよかったと思うようになりました。
インコの慣れ方からして、元の飼い主さんもあの子をとても愛していたと思います。とにかく人が大好きな子でしたから。
それでも、あの子はそれでも一人で雨宿りをしていました。
私にナンパされて、うちでも仲良く暮らしていたけど、一瞬のすきに飛び出した。
やっぱり、広く自由な世界で生きたかったのかなと思うのです。
たとえその結果、寿命が短くなったとしても、あの子は気にしないでしょう。
インコのナンパなんて、下手な小説みたいだけれど、本当にあった出来事です。
そもそも、自分がインコをナンパするなんて、想像もしていませんでした。それから1年後に去られ、父の涙を見るハメになることも。
わたしはこのことを思い出すと、人生って生きるに値するよなあと思うのです。
すごく大きな出来事ことや、刺激的なことがなくても、この数秒先に何が起こるかわからないっていうだけで、十分におもしろいじゃあないですか。
あれからも、雨の日は軒下を必ず見るけれど(本当に)、今のところインコに出会ってはいません。
でも、何があるか人生はわからないから、これからも軒下を見続けて、過ごしていこうと思います。
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