心の中に寂しがりの犬を飼っている。
先週の土曜日、数十年来の友人とランチをした。
辛い時や楽しい時をたくさん分け合ってきた彼女だが、ここ数年はお互い言葉が途切れがちになっている。
無理もない、彼女と私は生活スタイルも住んでいるところもまるで違うのだ。
仕事の関係で東京に暮らす彼女とは年に1、2度しか会わない。
だが、今年はちょっとこたえた。
なぜなら話したことをいくつか忘れられていて、その中には真剣に話した内容もあったから。
わかっている。もう学生じゃないんだから皆自分の人生で忙しい。
私だって、彼女の話を忘れたことが何度もあったじゃないか。
大人なんだからと思うのに、どうにもひどく寂しかった。
人との距離は、近づいたり離れたりする。時や場所、環境やライフスタイルの変化で。または心の変化で。
時にはつながりが終わることもある。
それは実に当たり前で自然なことだ。
なのに私はいつまでもそれが辛い。一度近づいた距離を変化させるのが悲しい。
昔からバランスが悪いんだ。それがどうしても治らない。
言ってみれば、困った犬を心の中で飼っているようなものだ。
寂しがり屋でよく鳴く、聞き分けの悪い犬を。
私は昔、この犬が大嫌いだった。
本気で捨てたかったし、鳴かないようにしようとしつけもたくさん試みた。
でもある時、この犬がいるから相手と深くわかりあうことができるのだと知った。
犬のおかげで、大切な相手を見つけることが出来たことも。
今は、犬が鳴いたら抱っこしている。
散歩に連れていったり、一緒に昼寝をしたり、音楽に耳を傾けたりしている。
すると、犬は鳴きやんで楽しそうに駆け回る。
今でも時々振り回されるけれど、もうこの犬を捨てようとは思わない。
抱きしめながら、なだめながら、なんとか一緒に生きていくだろう。
この日、私は心の犬を撫でながら、友人との時間を過ごした。
そのうち犬は落ち着き、鳴かなくなった。
そして、お互い健康に毎年食事ができて、さらにくだらない冗談で笑い合えることを喜び、ワンと吠えた。
「今年はお盆に帰るから、絶対に会おうね!」と友人は笑った。
私も「そりゃ楽しみだ!」と言って笑った。
来年は彼女と何の話をするだろうか?
また会話が途切れるかしら。
今度はこっちが聞いた話を忘れているかもね。
でも、それでもいい。彼女が元気で笑顔でいてくれたら。
楽しい毎日を送っていてくれたら。
多分彼女も、そのように願ってくれているだろう。
そう書いていたら、犬がワンと元気に吠えた。
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