マイブームは『座頭市』・・・勝新Forever!
こんにちは、ぷるるです。
3月のとある日曜日、私は電車内でおじいさん二人組の隣に座りました。
するとおじいさんAの、こんな熱弁が聞こえてきたのです。
「一度でいいから、座頭市見ろって!」
でもおじいさんBは明らかに無関心。その返事は超適当でした。
こういうことって、夫婦・親子・友人間でもよく起きますよね。
しかしこの時、おじいさんAの熱意はある人物の心を動かしていました。
そう、私です。
そんな訳で私は、今日までに勝新太郎版『座頭市』を計5本見たのですが・・・
はっきり言って、最高でした。
1962年から映画で26本ドラマで100本が作られた、大人気時代劇。
主演及び監督をつとめた、勝新太郎のライフワークでもあります。
私は北野武版しか見たことがなく、勝新太郎さんに至っては、「マリファナ逮捕、のちに面白会見をした時代劇スター」との印象でした。
でも今は、かつての自分にこう言いたい気持ちです。
この、無知無学の愚か者がっっっ!!!
勝新太郎さんはそれほどまでに名俳優、そして本物の大スターでした。
座頭市の見どころは、「市」という男の生き様と思われます。
大スターが演じるとそのイメージに邪魔されたりしますが、勝新は完全に『座頭の市』そのものになっていました。
ちょっと腰を落とし、慎重に歩く孤独な背中。
確認をするため、物や人を触る手つきと指の動き。
気配を感じ取る首の伸ばし方、食事の仕草、煙管の吸い方。
どれをとっても、実在感がすごいんです。
それから殺陣。
剣術無知の私ですら、その流れるような動きには鳥肌が立ちました。
なんだか舞いを見ているようなんです。勝新はどんな人でも楽しめる、『魅せる殺陣』を心掛けていたのかもしれません。
徹底したプロのサービス精神。
おまけに三味線や唄まで上手い!
お父様が長唄の三味線方だった勝新は、自身も三味線の名取。昔の俳優さんの芸達者ぶりには、本当に舌を巻きます。
ストーリーは5本ともほぼ同じで、座頭市が旅先で善人を苦しめる悪者を、剣にて成敗といった流れでした。
でも座頭市の存在自体が一番の魅力だから、同じで全然OK。
個人的には江戸の風俗や、着物での所作も楽しんでいます。
こうなると北野武版と比べたくなりまして、20年ぶりに再鑑賞しました。
今見てもラストのタップシーンは圧巻ですね。古さを感じさせない作品です。
でも切り口や表現方法、重点の置き所など、勝新座頭市とは完全に別物であることもわかりました。
勝新が伝統的な江戸前鮨なら、武のは寿司のヌーベルキュイジーヌといったところでしょうか。
特に違うのは、座頭市の人物像ではないかと思います。
もちろん基本設定は同じく表稼業はあんま。そしてカタギの中にもちゃんと溶け込める、穏やかな物腰と常識を持ち合わせている。
でもその体に流れるのは、絶対的なはぐれ者の血・・・。
その血は893者たちを引き寄せ、市の人生を平穏から遠ざけます。
居合の術はそんな彼が生き抜く「杖」となってもいるわけです。
でも勝新の座頭市は、人柄がと〜っても温かいんですよね。
己の業を恥いりつつも諦観する気持ちが、普段の市を謙虚にし、真っ当に生きる人々を助けさせます。
また悪党でも改心した者や気の弱い者は許す情の深さ。
不動明王様のように、憤怒の姿であってもその根幹は慈悲心なのです。
対して北野武の座頭市は・・・肝が冷えます。
彼も弱者を助けますが、己の業や世の仕組みをどこまでも無情に俯瞰で見ている気がします。
なんというかアウトレイジ感が、すごいんですよね〜。
この差は解釈や作品の方向性もあるでしょうが、最終的には『勝新太郎と北野武の違い』に行き着く気がしました。
創作って、普段秘めている本質が作品中で絶対に暴かれるから、やっぱり覚悟がいるし怖いですね。楽しいだけじゃ絶対に終われない。
つまり、この2人が素晴らしい表現者ってことなんですけどね。
今しばらくは、座頭市を見続けるつもりです。
しかしおじいさんAも、自分が見知らぬ他人に影響を与えたとは、思いもしないだろうなあ。
こういう偶然の流れって、本当に面白くて好きです。
座頭市を知らなくても生きていける。けれど、知った方がより豊かで楽しい。
おじいさんA、本当にありがとうございました。
<おまけ>
私が見たのは以下の5本です。よろしければ共に座頭市沼へ行きませんか?
個人的には血笑旅が好きですが、タイトルには疑問が・・・血笑ってどういう意味?オラわかんないな。
続・座頭市物語(1962年。兄の若山富三郎と共演。横顔そっくり)
新・座頭市物語(1963年。座頭市の恋物語。オチが酷すぎると思った)
座頭市血笑旅(1964年。赤子を育てる話。自らの乳を飲ませる勝新に注目)
座頭市関所破り(1964年。平幹二朗との対決をご覧あれ)
座頭市二段切り(1965年。子役時代の小林幸子が出演。歌うま!)
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