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効果的な1on1のための、最もシンプルな「テクニック」

1on1全盛時代ですね。
私をコーチとして雇ってくださっているクライアントさんの多くは管理職、1on1は皆さんの日常の重要な業務になっています。直属の部下全てと2週間に一度とか、何か問題が起きたときに即その関係者との時間をとって対応するなど。
コーチングは業務効率を高めるだけでなく、相手と自分の人生を豊かにすると思っている私にとって、管理職が周囲にコーチ的に関わる1on1が「組織の当たり前」になるというのは、大変喜ばしいことです。

「当たり前」が建前の域を出ない、厳しい現実

私はコーチングや1on1をメインテーマにした研修はあまりしませんが、リーダーシップ開発トレーニングや、組織開発で出会う管理職の方々から、1on1にまつわる以下のような悩みをよく聞きます。

①    会話が盛り上がらない
②    自分ばかり話してしまう
③    部下が本音を語ってくれない

そうだろうな…と共感します。こんな状態だと1on1の時間は上司にとっても部下にとっても苦痛でしかありません。「上司が部下に1on1をやるのは当たり前」と、言うは易し行うは難し、というのが実情かもしれません。

離職率が下がらないことへの対策として「職場での1on1の徹底」を謳う乱暴なロジックを耳にすると、背負いきれない重い責任を押し付けられた管理職の方々の嘆きや諦めを、我がことのように感じます。

されど、大事な1on1

組織の課題すべてを解決できるほど万能ではないけれど、1on1が有益であることは事実です。
自分が職場で管理職としてなんとかやれていたのは、コーチングを活かした一対一のコミュニケーションのおかげ。そして、その延長線で、一対一を、一対多に広げたファシリテーションのおかげです。
コーチという仕事を20年やってきて、これを職場の「現実的な当たり前」にするのは、個人にとっても組織にとっても、非常に重要なことだと思っています。

私は、1on1の質を左右するのはお互いの「関係性」だと思っていますが、関係性は一朝一夕には変わりません。それは日々少しずつ丁寧に耕していただくとして、今日は1on1の質を上げるためにすぐに役立つシンプルなテクニックをご紹介します。

あれもこれも… 気にしすぎるから、うまくできない

今やコーチングのコの字も知らないなんていう管理職は珍しく、研修を受けたことがある方も多いですね。一般的な研修では、最低でも、傾聴・質問(オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン)・フィードバック・GROWモデルなどが、半日や一日の短時間にてんこ盛りにならざるを得ません。更に「やってはいけない」禁止事項も色々インプットされます。

職場でいざ1on1に取り組もうとすると、「あれをしなくちゃ、次はこうしないと、あ、これをしてはダメ…」と、頭の中には自分への指示命令が一気にたくさん押し寄せます。こんな状態で、目の前の部下の話に集中して「傾聴」なんてできるわけがありません。

“会話の入り口と出口”のシンプルな枠組みが役に立つ

研修や書籍に触れていろいろな知識が増えたものの、それらを実践に活かせないという悩みを抱えていらっしゃる管理職の方々に、誰でもすぐに取り入れられるシンプルなやり方をご紹介します。

普通の日常会話は、なんとなく始まってなんとなく終わりますが、1on1では、「会話の入口と出口を管理」しましょう。

①      「入口」で合意をとる
②      「入口」を管理した後は聞き役に徹する
③      終了時間の少し前に「出口」を設ける

という3段構造です。

「会話の入口を管理する」

会話の入口は、テーマとゴールの言語化・確認、そして合意です。

「この時間で、何について話したいですか?」(=テーマを訊く)
「この時間が終わったときに、何を手に入れていたいですか?」(=ゴールを訊く)

といった問いを投げて、話者に自分で言葉にしてもらいましょう。それをあなたが伝え戻して相手に確認するだけで、「了解!これからそこに向かってお互いの時間を使うんだよね」という合意ができます。

時々「テーマとゴールの区別がつきにくい」という声を聞きます。

「テーマ」は主題です。例えば今後のキャリア形成だったり、これからスタートするプロジェクトのことだったり。
そして、「ゴール」は到達点です。このセッションの時間が終わったときに、どのような状態に着地したいのか、何を明確にしたいのか?

キャリア形成をテーマとして話すとしても、このセッションで

  • 5年後の自己イメージを明確にする

  • ロールモデルを見つける

  • 今の仕事が将来のなりたい姿にどうつながるのかを理解する

  • 直近で取り組む具体的な行動を決める

など、ゴールは様々です。ゴール次第で、何を話すかも大きく変わってきますよね。

結果を出そうと力まずに、聞き手に徹する

1on1を提供するからには、「おかげですっきりしました」とか「やることが明確になりました」とか言って欲しい、相手にこの場で気づきを得て欲しいという気持ちが湧いてくるのは、ごく自然な心理だと思います。だから、結果を出さねば!と力が入って、「話が盛り上がらない、困ったぞ」「次にどんな質問をすればいい?」「今のフィードバックは的外れだったかも」などと、私たちは自分で自分の不安をあおる自己対話に陥り、そのせいで相手の話を聞けない状態になってしまいます。

そんな状態から解放してくれるのが、「入口の管理」です。話者が自分の言葉でテーマとゴールを設定できると、セッションのベクトルが定まります。あなたが何とかしなくても、話者には無意識的にゴールに向かっていこうという気持ちが湧いてきます。
ですから、じたばたせずに、リラックスして聞き役に徹しましょう。正対して、「うんうん」「そうなんだぁ」「へー、それで?」といった感じで、丁寧に相槌を声に出し、その先を促すと、相手は話しやすいと感じてくれます。それを繰り返すだけで、徐々にリラックスして、たくさん話してくれるようになっていきます。

プロコーチとしての20年の経験から申し上げると、多くのクライアントさんが、セッションの中でよりも、セッションとセッションの間の日常で大事な気づきを得ておいでです。そして、気づきは、話者本人が体験するものです。何に気づくか、いつ気づくかをこちらがコントロールできるものではありません。「私がなんとかしないと!」と気負うほど、空回りしてしまうものです。

何も質問しなくてもOK。多少話が脱線しても大丈夫。目指したゴールに時間内で行きつかなかったとしても、気に病むことはありません。最後に「会話の出口の管理」をすれば、セッションの成果は現れます。

「会話の出口を管理する」

入口を管理した後、聞き手に徹したら、セッションの最後の5分程度で「会話の出口を管理する」ことに意識を向けてください。

出口の管理とは、「今日は〇〇(テーマ)について、△△(ゴール)に向かって話してくれましたね。ここまで話してみて、何が得られましたか?」というように、話者にテーマとゴールを簡単にリマインドして、自分が話したことを俯瞰的に振り返る機会を用意することです。

私たちは、話すよりも思考するスピードの方がはるかに速いですから、話者がセッションの中で言葉にしてこちらに伝えていたことは、本人が考えていたことのほんの一部にすぎません。一旦立ち止まって、テーマとゴールを再確認した上で全体を振り返る機会があれば、話者は、語ったこと・語らなかったことを再配列して統合し、簡潔に言語化することができます。これが、話者にとっての成果となります。振り返りで語られることが、こちらの予測を超えた内容になることも、「あるある」の一つです。

3~5分程度、最後に「出口を管理する」時間を設けてみてください。
中だるみを感じたり、脱線が激しくて困った時などには、中間にこのプロセスを挟んでみるのもお勧めです。そのまま進む・本題に戻ってもう一度考えを整理する・新しくテーマやゴールを設定しなおす、といった選択の自由を本人に示して、自分で決めてもらうように働きかけると、そこからまた違う流れを作りだせます。

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