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小田急線10人刺傷事件から考える非モテ男性についての考察

2021年8月6日、小田急線の車内で乗客10人が刃物で切り付けられる事件が発生した。殺人未遂容疑で逮捕された36歳の容疑者は「6年前から、幸せな女性を見ると殺したいと思っていた」「以前サークルでばかにされ、出会い系でも断られるなどし、勝ち組の女や幸せそうなカップルを見ると殺したくなるようになった」と供述している。

私は、容疑者のこのような供述から、この容疑者はいわゆる「インセル」なのではないかと感じた。「インセル」とは「involuntarily celibate(不本意な禁欲主義者)」の略語であり、モテないことによる不満から女性嫌悪に陥っている人のことを指す言葉である。しばしば「ミソジニスト」と混同されるが、「ミソジニスト」は女性嫌悪者を表す言葉であり、男性も女性も存在するが、「インセル」は男性しか存在しないという違いがある。

「インセル」という言葉が有名になったのは、2014年5月にアメリカのカリフォルニア州で発生した大量殺人事件がきっかけである。この事件の犯人である当時22歳のエリオット・ロジャーが、犯行声明の中で自分を「インセル」と規定し、女性への復讐を誓ったのだ。この事件以降、彼は「インセル」の象徴となった。

2018年4月23日には、カナダのトロントで10人が自動車で轢殺されるテロ事件が発生した。この事件の犯人である当時25歳のアレク・ミナシアンもFacebookでエリオット・ロジャーを称える投稿をしており、インセルの思想による犯行であるとみられている。

これ以前に、日本でも「インセル」が引き起こしたと見られる事件がある。2008年6月8日に発生した秋葉原通り魔事件である。犯人の加藤智大はインターネット上の掲示板に「不細工は存在価値なし」「女性にとって彼氏は自分の価値を証明するもの 故に、不細工には彼女ができない」等の非モテの絶望を記していた。

さて、「インセル」について述べてきたが、かく言う私も今年で23歳の彼女いない歴=年齢の童貞だし、出会い系と包茎手術に100万使ったし、彼女が出来ないことによる苦痛が原因で精神科に通っている非モテ男性である。そんな私だからこそ、今回の事件について思うことがあったので、今回の記事を書くに至った。

非モテ男性全てが「インセル」なのかと言えば、そうではない。非モテ男性の中でも「非インセル」と「インセル」には明確な違いがある。それは、モテない原因は自分にあると考えているのか、他者にあると考えているのかである。「非インセル」はモテない原因を自分にあると考えているので、自分磨きなどの努力を重ねれば、非モテを脱却する可能性すらある。一方、「インセル」は、モテない原因は他者にあると考えており、自分には非がないと感じている。しかしながら、「非インセル」も努力が実らずにモテなかった場合、「こんなに努力しているのに何で周りは認めてくれないんだ」という思考に陥り、「インセル」になることもある。

私も、出会い系や包茎手術に100万使ったが、彼女が出来なかった。同じ非モテ仲間だと思っていたバイト仲間に彼女が出来た時は、彼の幸せを憎み、泣きながら帰ったこともある。小田急線の事件の犯人のように、童貞であることをサークル内で馬鹿にされたこともあるし、出会い系の女性にブロックされたり、長文で人格否定されたこともある。小田急の事件を起こした容疑者も非モテ男性であったが、非モテ男性は少なからず、モテないことによる「苦悩」を抱えているのである。

もちろん、彼らの凶行は許容されるべきではないし、「非モテ」は誰かを無差別に傷つけていい理由にはならない。しかしながら、彼らがここまで非モテを拗らせる前に救済することは出来なかったのだろうか。

今回の小田急線の事件の容疑者は、サークルでばかにされた経験や出会い系で断られた経験から非モテを拗らせてしまったと推測できる。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という言葉で表されるように、人間は、その人を憎むあまり、それに関わる全てのものが憎くなるものである。これは心理学的にも証明されており、「ハロー効果」と呼ばれる。「ハロー効果」とは社会心理学の言葉で、ある対象を評価するときに、それが持つ顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のことである。非モテの場合で言えば、ある女性から非モテであることを馬鹿にされた場合に、「非モテを馬鹿にしてきた」という顕著な特徴によって、「女性は非モテを馬鹿にする」という歪んだ認知バイアスを引き起こしてしまう。「インセル」の心理には少なからずハロー効果による認知バイアスが関係していると思われる。

私が非モテの当事者として、この記事を書いたのは非モテ男性以外の人にも非モテの実態を知ってもらいたいというのもあったが、非モテ男性に「非モテ」を客観視し、「インセル」にならないようにしてほしいという願いが大きい。非モテ男性は女性やモテる男性に少なからずコンプレックスを持っており、少なからず歪んだ認知バイアスを持っている。非モテを脱却するためには自分磨きも大事であるが、まずは「自分の認知は歪んでいる」と自覚することが何よりも大事なのではないだろうか。そして、この認知バイアスを解消するためには、非モテ男性の周りの人間のサポートも大事になってくる。私は精神科に通うことで、自分の認知が歪んでいると気づかされたが、精神科に通うように勧めてくれたのは両親である。また、嫌いな人間との関係は終わらせ、自分のことを受け入れてくれる人間と関わることも大切である。「自分を受け入れてくれる人もいるんだ」という安心感から認知の歪みが改善される見込みがあるからだ。

「インセル」による事件は非モテ男性だけの問題ではなく、非モテ男性を取り巻く社会の問題だと、私は考える。非モテ男性が非モテを拗らせてしまうのは周りの人間による影響が少なからずある。それによって歪められた認知を当人はもちろん、周りの人間が認識し、改善していくことが「インセル」による事件を未然に防ぐことにつながるのではないだろうか。

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