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【小説】ひまわり娘 (762字)

町のはずれでひまわり娘と会った。焼けた肌に白い歯が映えている。ぼくに気づいた彼女は、にっこり笑った。
「さようなら」

笑いながら、彼女は言った。微笑む彼女を見ていると、胸が詰まる。十代の時からこれは変わらない。彼女は歳を取らない。ぼくは年々歳を取り、死に近づいていく。

小学校の時に、ひまわりの種を拾った。捨てるのが惜しくなり、家の庭に植えて、一生懸命に育てた。夏の終わりに枯れたひまわりを見て悲しんでいると、ひまわり娘が会いに来てくれた。

「私はあなたが育ててくれたひまわりなの。一生懸命育ててくれて、ありがとう。私は死なない。これからいつも会いに来るから」彼女は、そう言ってくれた。

子供の時に住んでいた家からは引っ越した。今もその家で、あのひまわりが咲いているのかもしれない。彼女とは、夏の終わりにいつも会うことになった。町はずれや郊外の誰もいない道を歩いている時に。

彼女に会うと、夏が終わる時の寂しさがこみ上げてくる。7月に生まれたせいかぼくは夏が好きだ。入道雲を見たり、蝉の声を聞くと体の中から力が湧いて来る。夏が終わるときは、その力が少しずつ抜け落ちて空へ帰っていく感じになる。

今年の夏は仲の良かった友達が死んだ。突然の死で、胸の中に穴が開いたようだ。

「また会えるよね」ひまわり娘にそう言ってみた。

「もちろん」彼女は大きくうなずく。そして笑った。花のような微笑み。花なんだから当たり前だが、胸の中が温かくなった。この時になって初めて、この世に花のある意味に気づいた。花は人の心のうつろな部分を満たしてくれるために咲くのだ。

別れがなければ、出会いもない。ひまわり娘にまた会えることを信じて、
「さようなら」ぼくは手を振る。ひまわり娘も手を振って、歩き始めた。彼女の後ろ姿が少しずつ小さくなる。空には無数の赤とんぼが飛んでいた。


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