見出し画像

【読書日記】1/28 (844字)

『楚辞』は中国文学の古典です。戦国時代の楚で歌われていた歌謡がもとになった作品。「詩経」と並んで中国の古典の源流です。格調高い言葉で綴られた叙事詩的な内容を持っています。

全編韻文になっており、現代の日本人に馴染みのない言葉も多く使われているので、読むのに苦労しました。何度か挫折しそうになって、読むのを中断していたこともあります。去年から読み始めて、最近やっと読了しました。

前望舒役先駆兮
後飛廉役奔属
鸞凰為余先戒兮
雷師告余以未具

原文はこんな感じです。これだと何が何だかさっぱり分かりませんが、書き下し文と詳しい注がついているので、内容は理解できます。この部分は当時の社会の堕落ぶりに絶望して、主人公が天に旅立つ箇所です。

古代の詩集ですが、現代に通じるところがあります。それはいつの世であっても、人間は安易な堕落した道を選び、気高く理想を持って生きる人間は苦労するということです。

『楚辞』の1章では、地上からの旅立ちの悲哀が切々と歌われていて、胸を打ちます。さらに天の世界にたどり着いても、神々に受け入れてもらえず、苦難が続きます。ここが興味深かったです。

神々に出会い救われると予想しながら読んだのですが、それははずれました。この部分は現代的で、現代人にも受け入れやすい気がします。今の社会で起こる悲惨なことを見ていると、神様の存在を疑いたくなるのは自然な感情です。

主人公は苦しみの中にあるわけですが、それでも理想を求める旅をあきらめることはしません。この強靭な精神には勇気づけられました。

私のこじつけですが、主人公の行動には20世紀の実存主義的なところがあります。絶対的な神に頼るよりも、自らが行動するといった点です。おそらく後世の多くの人が、本書を読んで慰められたのではないかと思います。

今の世界でも不正や腐敗が横行しています。それを指摘している私もダメな人間です。でも『楚辞』のような本を読むと、理想を捨てないことが何より大切だと感じました。苦労して読みましたが、読んでよかったです。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?