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自転車小僧の憧れ

自転車小僧の憧れ

ぼくは自転車小僧
自転車のことなら任せとけ!

フランス製のタイヤは丈夫で、
イギリス製のボディーは美しい
日本製の保証は実にしっかりしている。


「おーい!自転車小僧!
サッカーしに行こうぜ!」

「わかったー!今行くよー!」



みんな走り出す自転車
その後ろを走り出すぼく


そう、ぼくは自転車に乗れないのだ


こんだけ自転車の知識があるのだが、
全く乗ることができないぼく。


「いつかフランス製の自転車がくるまで
ぼくは乗らないんだ」


本当は隠れて1人で練習してるけど、
全く乗れないんだ


「おーい!!
遊びに来たぞー!!」


近所のたかし兄ちゃんが来た


たかし兄ちゃんが
「そろそろ、自転車小僧も本当の自転車が欲しいんじゃないか?おれのおさがりでよかったら使わないか?」とやってきた


するとお母さんが、
「フランス製じゃないと乗らないらしいわよ」と笑って言った。

誰かが、
「乗れないだけじゃねーのか」と笑った。


ぼくは、たかし兄ちゃんの前でもそんなふうに言われて、すごく恥ずかしくて嫌な気持ちになった。


すると、たかし兄ちゃんは、


「あー!フランス製とは違うから、乗りにくいかもしれないけれど、試しに一緒に乗ってみて、よかったらもらってくれないか?」と言ってくれた。


少し人気のない場所に来て、たかし兄ちゃんがスイスイ乗ってみせ、なかなか乗りたがらないぼくに、こんな話をしてくれた。


たかし兄ちゃんも昔自転車が乗れず、下の兄弟も乗れてる中、自分だけ乗れずに友達からも、家族からも笑われたらしい。その時、知り合いのおじさんが少し離れたこの場所で自転車の練習を何日も何日も一緒にしてくれたらしい。

転んで、転んで、下の兄弟さえ乗れているのに、
乗れない自分に嫌になっていると
「たかしには、たかしのタイミングがある」
「前よりもいい感じだぞ」
「それでも挑戦するたかしを尊敬するよ」
と声をかけ続けてくれて、乗れるようになったらしい。


今では、自転車どころか、バイクも車も乗れるたかし兄ちゃんにそんな過去があったなんて、ぼくはびっくらこいた。


その日から、たかし兄ちゃんとの特訓は始まった。

乗っては転び、転んではひざを擦りむき、
そうして何度も立ち上がり、挑戦した。


そのうち、たかし兄ちゃんとの練習がたのしくなった。
いつからか、たかし兄ちゃんの友だちも来てくれて、みんな手伝ってくれたり、励ましてくれたり、応援してくれた。

嬉し、恥ずかし、自転車小僧の夏。

みんなに笑われていたぼくは、いつか応援されるようになっていた。


「おーい!
自転車マスター!
野球しに行こうぜ!!」


ぼくは、たかし兄ちゃんとの思い出と歴史の詰まった自転車をみんなと一緒に乗りまわす。


うん。
フランス製じゃないけど、
おさがりってのも悪くない。

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