【1日1文献】死と生の連続性に焦点を当てた作業療法のあり方に関する検討 -作業科学的観点からの一考察-#意味のある作業#作業科学#死

参考文献:死と生の連続性に焦点を当てた作業療法のあり方に関する検討 -作業科学的観点からの一考察-
筆者:森本 真太郎
発行日:2021年
掲載元:日本福祉大学健康科学論集 第 24 巻
検索方法:インターネット
キーワード:Meaning of occupation,Occupational science,Occupational therapy,Death

メモ
・我が国の年間死亡者数は, 2025 年に 150 万人を超えると想定され,まもなく多死社会を迎える.
・日本人の死亡場所の推移 1)をみると, 1950 年代は自宅等(病院施設以外)が 80% 以上であっ たが,1970 年代半ばに約 50% に減じ,2010 年代には 約 15% になった.
・一方,病院・老人保健施設での死亡 者は,2010 年代から全体の約 85% で推移している. 
・つまり,現代日本人の多くは医療・福祉施設で死ぬ.

・この背景には,死を遠ざける現代日本の文化がある. 
・例えば養老 2)は,現代人は死を考えないようにしてい ると述べている.
・藤井 3)も,現代人は死について考え る時間がほとんどなく,もはや専門職に委ねられている と述べている.
・専門職とは医療者,つまり専門家である が,専門家がどのように死を捉え,どのような死生観を もてばよいのかが,教育の中で抜け落ちているとされて いる 3) . 

・他方,「作業」という概念を治療手段として,クライエントの支援にあたる専門職が作業療法士である.
・日本の作業療法士は,その約 75% が医療機関に勤務している 4) .
・先に述べた日本人の死亡場所を踏まえると,作業 療法士は,クライエントの死に近い環境にいると思われる

・精神科医の Adolf Meyer らは,人間は,活動を通して精神と身体を形成する「作業的存在」であることを提唱した.
・「作業的存在」とは,人間の本質的なありよう示す概念で,人は意味のある活動をすることでその人となりを形成していくことを示している
・治療では,道徳療法による人道的観点から,動機付けや作業参加と環境との結びつきに焦点化され,全人的にクライエントを捉えることに価値が置かれた.
・これが作業療法として知られるようになり,1917 年には,世界初の作業療法職能集団が設立された.

・宮前は,作業とは個人・社会・文化の所産であり,作 業療法は,クライエントにとって意味のある作業を可能にすることを通して心身の健康の回復を図るものと述べ た
・これを踏まえて,作業療法学の学問レベルは,社会 科学,心理学,生物学であるとした.  
・ここに付言すれば,現在の作業療法は,スプリント (手の装具),福祉用具の作成・適合,機能的電気刺激な ども行われていることから物理学も含まれると考えられる.

・さらに宮前は,作業療法学の他に医学,薬学,看護学 等の医療専門分野と学問レベルの関係を考察し,各専門 分野に共有する学問は生物学(基礎医学)と述べてい る.
・つまり,生物学(基礎医学)が共有された学際の中 に作業療法学が存在する.
・ここにも医学的な還元主義の 認識論が日本の作業療法学に影響していると考えられ る.
・このことは,前節で述べた還元主義の優位性によ り,holistic な概念を取り入れて実践することに苦戦し ている現代の作業療法を裏付けていると示唆される.

・QOL には共通した理論的基盤がないため,Cummins16)は, QOL の語源から「生きることを問う営み」と定義した.
・作業療法士の京極ら 17)は,Cummins の考えを発展さ せ,QOL が「営み」である以上,時間を内在し絶えず変化する動的構造として捉えることを提唱し「クライエ ントにとって善く生きることの意味を問い続ける営み」 と定義した.

・藤井 は, 全人的苦痛に向き合う人に対して唯一できることは,「寄り添い」であると述べている.
・寄り添いとは,専門 家自身が能力の限界を認め,専門性を手離してクライエ ントのありのままを受け入れるプロセスとされる 3) .
・つまり藤井の主張は,作業療法の専門性を捨てる必要があ ることを意味している.
・作業療法においてクライエント を治療・支援することは,あまりにも自明的であるため,寄り添いの概念は受け入れ難いかもしれない.
・しかし,作業療法のルーツは人道的観点に立った道徳療法にある.
・この事実は,全人的苦痛に向き合う人々の存在肯定,およびクライエントを holistic に捉える作業療法学の学問的特徴を根拠に,「寄り添い」,即ちクライエント のありのままを受け入れるプロセスが,作業療法思想に も潜在的に存在していると推察される.
・これは「なにもできないから寄り添うしかない」という冷めたニヒリズ ムではなく,むしろ作業療法の専門性を意図的に排した 積極的関与によって,死と生の連続性に焦点を当てた作業療法の実践が可能であることを意味していると考えられる.
・以上より,死と生の連続性に焦点を当てた作業療法のあり方とは,意味のある作業の遂行を通して,人間らし く生き,善き死を迎えるための全人的支援により,クラ イエントの存在を肯定し続けることと言える.

参考URL:
file:///Users/wataruisshiki/Downloads/kenkou24-04-morimoto%20(4).pdf 


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