4/7 てんぷらとおじさん


明日は友人に会いに行くので、ぴ(配偶者)に手土産を選ぶ手伝いをしてもらった。
ぴに手伝ってもらうということは、お目当てはもちろんお酒である。一白水成という日本酒を購入。そんなに違いがわかる訳では無いが、私もこのお酒は好きだ。その後いくつかお菓子を買いミッションコンプリート。こころなしかぴも嬉しそうだった。喜んでくれるといいなあ。

その足で行きつけの天ぷら屋さんに行く。しとしとと雨が降っていたので、アーケードの中にある、そしておいしいこのお店をチョイスした。いつも通り天丼とうどんのセットとてんぷら盛り合わせ、日本酒をいくつか注文し、まったりと夕食を楽しんだ。ここの店員さんはみんな距離感がちょうど良くてそして親切で気持ちがいい。もちろん天ぷらの味も絶品で、衣はさくさくだけど中はしっとり。甘めのタレもご飯にあう。とり天、大葉チーズ天、にんじんのかき揚げ…どれもおいしくて1番を決められない。昨日飲みすぎたので、私は烏龍茶で、ぴは日本酒を煽り、他愛ない話をして幸せを噛み締めていた…のだが。
「今いい?」
「はい、いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「…今いい?」
「えっと…」
「だから、今いい?」
後ろから不穏な会話が聞こえてきて事態は一変した。声の感じからして中年男性だろうか。ずいぶんと高圧的な態度である。せっかくの楽しい気分が落ちていくのを感じた。偉そうな口調、というか相手を軽んじている感じ、不機嫌になって相手をコントロールしようとしている感じ。こういう雰囲気の話方、人の怒鳴り声もだけど、引きずられてしまう。耳に入れたくなくても真後ろで行われている会話は意識の隙間を縫って脳に入り込んでくる。ああ、怖いしイライラする。
私たちは無言で残りの天ぷらを詰め込むと、席を立った。最後の天ぷらの味はあんまりしなかった。その時、ぴが500円貸してと言ってきたので不思議に思いながらも手渡す。先に支払いしてるね、と上着のボタンをもたもたと閉める私を置いてぴはさっさとレジに行ってしまった。

のそのそとぴに追いつくとなにやら店員さんと会話していた。終わったのか、はたまた私が来たからなのか、ぴはご馳走様でしたと声をかけ店を後にした。帰路の途中でぴは、やっぱ返すと言って500円玉を渡してきた。きくと、店員さんへのチップとして渡そうと思っていたらしい。チップって、いいのかな?というかチップって何なのかわからん…と思いながらもはたと気づき合点がいった。ああ、ぴもあのおじさんにイライラしていたんだ。

「ああいうやつ、不快」
この地域に引っ越してきてから、こんなふうに嫌な気持ちになる事が増えた。たまたまなのかもしれないけど、決まってそれは中高年の「大人」たちで、お客さんも店員さんも運転手さんにもそういう人たちが多かった。

今回の人は、会話になっていないのにそれに対して怒り始めていた。今大丈夫?じゃなくて、1人なんですけど空いてますか?が正しい伝え方なんだと思うけど。コミュニケーションというのは、つくづく相手への思いやりが無くては成立しないものなんだなと感じた。1人なのか、それとも後から10人くるのか、それが分からなければ大丈夫も何も言えないじゃないか。そんなことすら、相手の立場を考えることすらできないのか。こういう「大人」が、「おまえはまだ子供だからわからないだろうけど」とか「もっと頭を使えよ」とか言うのだから、子供たちの信用を無くすのだ。(今回のおじさんはどうだかわからないから偏見ではあるけど)
「若い世代にこんな思いさせたくない。俺たちが守らないと」
ぴはそういうが、とはいえどうしたらいいのか。
例えば、今回の件において横槍を入れることは出来た。おじさん、1人なの?あとから30人くるの?お店の人困ってるじゃん、などと言ってお店の人のフォロー+己の考えの至らなさの自覚を促すことは出来る。でも、その後は?もしかしたら激昂してヒートアップするかもしれない。その場合、店員さんを攻撃したりお店事態に嫌がらせとして低評価のクチコミを広めるかもしれない。それは果たして意味のある行為なのだろうか。
結果、ぴはレジでお店の人に丁寧な接客のお陰でおいしく食事できました、と感謝の言葉を伝えるという事を選択した。なんだ、それが正解じゃん。

たぶん、戦争が人の心や考え方を歪めてしまったのだと思う。だから当時の人たちにとっては、生き残るための正しい考え方だったのだろう。でも、今はもう違う。人間が水中から陸へ生活圏を変えて行ったようにわたしたちは常に変動する環境に適応していかねばならない。この先は分からないが、少なくとも今は最低限の生活が保証されており滅多なことでは命が脅かされることは無い。だから、もう少し相手への敬意や優しさや感謝を示したっていいじゃないか。そんなに見境なく威嚇しなくたって、だれも取って喰ったりしないのに。
でも、この地域にはおじさんみたいなのが沢山いるから、威嚇していないと喰われちゃうんだろうな。だからおじさんみたいなのはなくならない。わたしたちみたいに年下の優しい人間がどんどん傷ついて、だから若者は県外に行ってしまうんだろうな。
ここは掃き溜めだよ、とぴはつぶやいてお口直ししなきゃ!と駅ビルの中のビアホールへと歩き出した。ぴの肝臓を心配しつつも今日ばかりは賛同して後に続いた。
やっぱり不機嫌になって人をコントロールしようとする人はこわいし、怒鳴って威嚇する人もこわいから直接何も出来ないけど、「こういう事がありましたよ、そしてこう思いました」って問題提起するのがわたしに出来ることなのかなと思った。ひどい扱いを受けた時に自分を責める人が減って欲しい。

だらだら書いてしまった。はあ。
悲しいことがあると筆が進んでしまうのは皮肉な事だ。でも吐き出してすっきりした。
明日は友人と会う、そろそろ寝よう。
では、また。

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