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浪華温泉は淀川にいちばん近い(かもしれない)隠れ家

よく飲食店などで「隠れ家的○○」という言い回しがありますが、今年の夏に閉業された、大阪市都島区の浪華温泉ほど、その言い回しが似合う銭湯も、そうそうないように思います。

最寄り駅はJR城北公園駅ですが、大通りではなく、線路沿いの狭い道を、延々とまっすぐに歩き、もう少し歩けば淀川に辿り着くくらいのところまで行く。そんな位置にひっそりと佇んでいる銭湯、それが浪華温泉。

込み入った住宅地の中にさりげなくある上に、建物がわりと奥のほうに引っ込んでいるため、初見では通り過ぎてしまうかも。

というか、初見でなくても何度か通り過ぎてしまったことがある。

その道中には、なぜか後部のガラスがめちゃくちゃ割れているスバルインプレッサ(今もあるのかは不明)や、やたらと上手い煉獄さんの啓発ポスター(『鬼滅の刃』ブームの頃にずっと貼られていた。現在は撤去)などがあり、それらのインパクトに押されて、ついついうっかり。

最終的には「あのトンネルの手前」という覚え方をして通っていました。その「あのトンネル」を抜ければ、もうそこは淀川なのですが。なにげに、淀川に最も近い銭湯なのではなかろうか。

冒頭で、今年の夏に閉業されたと書きましたが、以前から店内の貼り紙には、燃料代の高騰や設備の不具合のせいで経営が厳しい旨、その影響で営業時間を短縮している旨が書かれていました。

それゆえに、銭湯の廃業が相次ぐ昨今、ここももしかしたら……、とは感じていて、Xで閉業を知った際には「ついにか……」という感想でした。

隠れ家的な存在ゆえに、見つけた時の喜びが本当に大きい銭湯でもあって、なんというか、アジトをひとつ失ったような気分である。

初めて訪れたのは2021年ごろだったと思うのですが、当時は有名なサイト「サウナイキタイ」にも登録されておらず、俺だけが知っている穴場の銭湯、という感覚がありました。

というか、Googleでもここは出てこなかったような気がする。銭湯にハマリ始めた頃、チェックシートを作成するアプリで、大阪市内の各区ごとにネットで調べた銭湯店舗の名前を登録してマイシートを作っていたのですが、浪華温泉はそこになかったような。

隠れ家的なところが好きだった、というのとは矛盾してしまうのですが、浪華温泉は、埋もれるには惜しい良店でした。

はっきりいって、外観はかなり地味です。一度どこかのタイミングで改装されたようですが、2018年の大阪府北部地震のせいなのか、壁の一部にひび割れが。

店名のロゴや看板がまた、昭和を感じさせる雰囲気なので、暖簾を潜る直前まで、昔ながらの番台式なのだろうと思っていました。

実際に入ってみると、内部はかなり現代風でフロント式。ロビーには、どこの会社の応接室やねんというような立派なソファーがある。

だいたい閉店の1~2時間前などに行くことが多かったので、ここを使うことはありませんでしたが、重役気分が味わえたかもなあ。

浴室もまた現代的で、広さはないものの、普段使いするぶんには申し分ない。

この、ミニマムながら痒いところにはだいたい手が届く感じには、なんとなく京都銭湯っぽさを勝手に感じていました。外観はレトロ、中身はモダンというか。

小さいながらスチームサウナもあり、なかなかの灼熱。水風呂は向かい側なので導線も抜群。この水風呂が異様に心地好い。キンキンに冷たいわけでも、ほぼ井戸水だという京都銭湯の水風呂みたいに柔らかいわけでもないのに、なぜか妙に心地好い。

やはり淀川に最も近い(かもしれない)からか?うーん、わからん。ただ、川が近くにある銭湯は、だいたい水が良いような気がする。気がする、というだけで、気のせいかもしれませんが、それで良い。そういうのでいいんだよ。

そもそもここは、温泉と名が付いているのに、実際には温泉ではない。大阪のほとんどの銭湯はそうだ。なんかそれっぽい、で構わんのだ。

なぜか銭湯にしては天井が低く、露天風呂もないので開放感があまりなく、それが建物の立地に拍車をかけて、隠れ家感を醸し出しているのですが、街中の喧騒に疲れた時にちょっとだけ逃げ込める場所として、その閉塞感がむしろ心地好い。

有名店や大きいところに行くと、どこも高い満足度で帰れるのですが、それとは別に、何がどう凄いわけでもないけどなんか落ち着く、ネットのクチコミは少ないけど自分はなんか好き、そんなアジトを見つけた時の感動は、何物にも代えられない。

そして、そういうところのひとつが浪華温泉でした。ありがとうございました。

サウナはたのしい。