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古代檜炭酸泉と過去と未来と現在

大阪の豊中市に、五色という有名な銭湯があります。

スーパー銭湯の先駆的存在と呼ばれるところのひとつで、形態としてはふつうの銭湯なのですが、その広さは一般的な銭湯のだいたい3倍くらい。うどん店も併設されており、食事だけの利用も可。駐車場は60台まで入る。年中無休、月曜日の朝の定期点検時を除いて24時間営業。

しかし、なんといってもここの最大の特徴は、「夢の公衆浴場」「日本一の銭湯」と暖簾に掲げられたフレーズの大胆さでしょう。なんとも形容詞がでかい。未来に夢しかなかった時代を感じさせる。

1964年に開業され、もともとは五色温泉というふつうの銭湯だったらしいですが、1987年の建て替え時に巨大化し、現在の形態になったのだそう。

バブリー真っ只中の新装開店当初の空気が、いくらかまだ残っているのでしょう。店員さんはみんな法被を着ており、いつ行っても祭りをやっているような雰囲気。

正直なところ、2000年以降に建てられたスーパー銭湯に比べると古くささがあるし、広い銭湯なら他にも府内にいくつかあるのですが、大阪の北部では自分はこの五色がいちばん好きです。

旭区の神徳温泉はこれ以上これを付け足せばいいのかというくらい設備が充実していて、こちらも「21世紀の公衆浴場」と大きなキャッチフレーズがあるのですが、21世紀の世界線なので、平成初期から中期にかけて自我を形成した自分にとってのノスタルジーとはズレる。こちらも素晴らしい銭湯ですけども。

大阪の北部は、この2つに行けば間違いない。この2つが合わなければ、きっと公衆浴場そのものが合わないのだと思う。

ちなみについでに紹介すると、スーパー銭湯なら神崎川のほとりのパチンコ屋に併設されている、あるごの湯が良い。天然温泉などはないけど、毎日のようにロウリュウサービスを行っており、岩盤浴が5種類もある。一度はいったら二度と出られない魔窟である。 

あと、少々お高いし、男性限定だが、梅田のニュージャパンはすご……、あ、五色の話でしたね。

なにせ1987年に造られたので、ほとんど自分と同い年なのです(まあ、自分は14歳なんですけど……)。

古代檜炭酸泉というのがあり、その横の壁にはその効能が書かれている板が設置されているのですが、それがいい感じにヤレてきている。

まだ文字が読める程度のヤレだが、これからだんだん年を重ねて色が落ちて、解読不能な文章になっていくのだろうか。

その頃には、私も老眼鏡などを持つようになっているのだろうか、などということを考えながら湯に浸かるのが感慨深い。

この位置の天井は半分がガラス張りになっており、空が見えるのですが、いつからこういう空があったのだろうと、考えても意味がないことを考えたりして無為に過ごす。

やがてありえないくらい熱いスチームサウナに入り、蒸気の中でクラクラしながら、過去がどうだろうが未来がどうなろうがなんかどうでもよくね?という気分になり、水風呂で精神がリセットされた頃には、過去でも未来でもなく、かといって現在かどうかもよくわからない世界に迷い込む。

鏡の国に連れて行かれたアリスになったかのようである。しかしドライサウナの扉を開けてテレビを視れば、有吉さんの顔が映り、しゃべくり007が放送されていて、まぎれもなく2023年の時間が流れていることがわかる。

その時間が8分ほど流れたら、再び水風呂へと足を運び、また過去か未来か現在かよくわからない世界に……というループ。

そしてまた古代檜炭酸泉へと戻ってくる。風呂で身体を洗う順番も、銭湯で浴槽に入る順番も特に決めていませんが、五色に限っては、いつも最初と最後にここに浸かることに決めている。

さっきみたいな深いことは考えておらず、ただただ今日の空は星があっていいなあ、ということを思う。

あの星の名前はさっぱりわからない。ピリカ星かもしれない。パピくんが住んでいるかもしれない。僕はいつごろ大人になるんだろう。もう大人のような気がするが、いや違うような気もする。

とりあえず、まだ老眼鏡はいらんし、当分は死ななさそうなので、帰ったらビールを呑もう。

サウナはたのしい。