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ナショナル温泉の隠れ家

大規模な商業施設である三井アウトレットパーク大阪門真が去る4月17日にオープンし、大阪メトロの長堀鶴見緑地線と繋がるモノレール門真南駅が2029年に開業する予定とのことで、ホットな話題が続いている門真市街ですが、モノレール及び京阪電車の門真市駅の界隈は、のんびりとした、素朴な雰囲気のところです。

近畿地方の民ならお馴染みのショッピングセンターであるイズミヤが駅前に鎮座し、おそらく昭和の後期からあんまり変わっていない姿で出迎えてくれる。

少し前までは2階に書店があり、その書店を通らないと入れないトイレがあって、そのカオスな雰囲気が良かったのですが、残念ながらその書店は昨年の秋に閉店してしまった模様。

しかしながら、どこかレトロな感触はそこかしこに残っていて、平成時代っぽいファンシー雑貨店のバラエティ101や、謎に凝った造りの中庭、半地下の階段の踊り場に設置されたトイレなど、現代的なイオンやアリオには見られない雰囲気がなんとも和む。

そんな門真市駅前から、天理吹田線の高架道路の下をくぐり、「まさや」の文字が妙にインパクトのあるピザ屋の角を曲がり、ごちゃごちゃした住宅地をしばらく行くと、さりげなく灯るネオン看板。

門真市駅から徒歩5分の銭湯、ナショナル温泉である。

ナショナルといえば、現在はもう消滅してしまったものの、パナソニック、すなわち、旧松下電器産業のブランド名として、長年のあいだ親しまれていた名称。

そのナショナルの名前を冠した屋号ですが、何か関連性があるのかどうかは謎。

併設のコインランドリーに置いてある洗濯機はサンヨー製品で、トイレ設備はTOTO、体重計はクボタである。もしかしたら、ボイラーやサウナストーブがパナソニックなのかもしれないけど、これは確認できていません。

サウナーや風呂好きには誰しも、自身のホームとなるサウナや銭湯があるものですが、このナショナル温泉は、まぎれもなく、マイホーム銭湯のひとつといえる。訪れる頻度が非常に高い。

ただ、以前に紹介した豊中市の五色や京都市のやしろ湯と違って、他のところと比べて明らかに違うというわけではなく、屋号こそインパクトがあるものの、銭湯の店舗としては非常にオーソドックスです。

広さも標準的で、サウナは別途で100円が必要、塩風呂はちょっと珍しいけど、浴槽の設備も変わったものは特になし。

北摂地域の中ではわりと銭湯が残っており、どこも人が入っている門真市の界隈では、3階建てで巨大な大一温泉や、関西の廃銭湯の継業を請け負うゆとなみ社が経営を受け継いで宣伝に力を入れているみやの湯、一般銭湯では珍しく塩サウナがある常磐温泉などがあり、正直、このナショナル温泉に何か特別なトピックがあるというわけではない。

だから良さが説明しづらいのですが、なんかわからんけど落ち着く、のです。でも、それで良いのかもしれません。

たとえ、周りから見たらすごく可愛いわけではない、イケメンなわけではないとしても、一緒にいて楽しいことの方が、よっぽどパートナーとして重要なことです。たぶん、それと同じこと。知らんけど。

そもそもこのナショナル温泉、出会いがけっこう強烈で、実は最初に訪れた時に間違えて裏側の駐車場に回ってしまい、その駐車場の奥にあるシャッターが完全に閉じられていたので、ああここも時代の波にさらわれて廃業してしまったのか、と早合点してしまったのです。非常に失礼な話なのですが。

しかし、その数ヶ月後にサウナイキタイというサウナーなら誰でも知っているサイトを閲覧していたところ、つい最近に来訪したという書き込みを発見。なんだあそこ、潰れていたわけじゃなかったのか。

というわけで、改めて場所を確認すると、大阪屋食堂なる渋い料理店の近くで、ちゃんと元気に営業されていました。

なくなったと思い込んでいた店舗が今もあるということにテンションが上がり、その後も何度か通ううちに、もともと打たせ湯だったと思われる、カーテンで覆われたところのノズルが撤去され、半身浴エリアみたいな扱いになっているのを見つけました。

このエリア、いつ行っても誰も入っているところを見かけませんが、自分はけっこう気に入っていて、だんだん、サウナ後にここで整うのが定番になってきました。カーテンで仕切られていて、なおかつ完全にひとり用のスペースなので、無になれるのです。

設備に変わったものはないとさっき書いてしまいましたが、実はこの、打たせ湯の再利用っぽい半身浴エリアこそが、ナショナル温泉が他と一線を画する特徴なのかも。

狙ってやったわけではなく、あくまで偶然の産物っぽいですが。この隠れ家のような雰囲気がたまらん。

アウトレットパークの開業とモノレールの延伸により、今後の門真市街はどんどん賑わうことでしょうが、昭和末期の雰囲気を纏ったイズミヤと、ナショナル温泉のカーテンの向こうの隠れ家は、いつまでも在ってほしいものです。

サウナはたのしい。