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ナルシストになりたい
「鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのは誰?」と臆面もなく言えるのは、きっと自己肯定感がとても高く、自身の外見に関して、とてつもない自信があるからでしょう。
少なくとも、有名な童話『白雪姫』の魔女さんはそうなのだと思います。
本当はコンプレックスの塊で、人一倍の劣等感があって、それを誤魔化すためにわざと他者を貶め、自分を大きく見せているのかもしれませんので、一概には言えない部分もありますが、表層的にはそう見えてしまいます。
そして、ある意味ではそれが羨ましかったりもします。
実際の魔女さんが美しいか美しくないかは置いておいて、何の躊躇いもなく自分を素晴らしい容貌の持ち主だと信じて疑わないことに対しては、尊敬の念すら覚える。皮肉ではなく、まじめにそう思う。
ええ、掻い摘んでいえば、自分はナルシストに憧れているのです。自己肯定感が低い人なので。
これはもうおそらく生まれつきというか、遺伝的にそうなのです。自分あるいは家族を謙ることが美徳と教えられて育ってきたので、今さらそれを反転するのは難しい。
別に自分の顔が死ぬほどブサイクだとは思わないけれど、イケメンだとは口が裂けてもいえない。
なので、洗顔する時に鏡をいちおう見るけれども、そのまま長時間うっとりする、などということはまずない。
というか、できるだけ鏡と向き合う時間を短縮したいので、できるだけ俊敏に洗顔する。
髭を剃る時も同様。なのでたまにミスって皮膚を切っちゃう。口周りの皮膚ってどうやら弱いらしく、切りやすいんだよね……。
マスク着用が当たり前の世の中になって良いことは、頬のあたりに絆創膏を当てた状態で外に出てもバレないことです。
本当はマスクの下の顔は花菱烈火なのですが、誰もそれに気づかない。
マスクを着けることへの是非は人それぞれあるのでしょうが、自分は例のアレが収束しても、しばらくは外さないでしょう。
顔を少し隠した状態でいても許されるって、けっこう快適なんですよね。他人に顔をあまり見られなくて済む。
いや、自分の顔を恥じているとかではないのです。ただ、美しくもない顔を衆目に晒すことが、何かの役に立つとは思えないので……。
衆目といえば、それこそ顔を見られるのが仕事であるイケメン俳優の方々とか、いったい普段どういう感覚なのでしょうか。
自分みたいな一般人なら、自信がないのでイケメンではないので顔はなるべく覆いたいという甘えが通りますが、芸能人はそうはいきません。
たとえ御本人に1ミリも自覚がなかったとしても、周囲からすれば間違いなくイケメンなわけで、それを否定することは場合によってはファンやプロデューサーなどに対して失礼な行為にあたるわけで。
テレビ番組でうっかり「僕ブサイクなんで……」なんてポロッと言っちゃったらもう大変。
Twitterが「彼が自分のことをブサイクと思ってるなんてびっくり」「自覚のないイケメンっているんだ」という感想で溢れかえり、その後にゴシップニュースサイトが「イケメンなのに自分をブサイクと言うなんてイヤミ」と悪意のある改変を行った記事をでっちあげて炎上。
最終的に、誰も悪くないのに事務所がホームページに謝罪文を載せる事態に……などということも、この世知辛い社会では、あり得なくはない。聖人と名高いHIKAKINさんですら、実は2回ほど炎上していますからね。
そういうことを考えれば、自分はたいした顔でなくて良かったなあと感じつつ、そもそもろくに掃除をしていない鏡が埃がかっていることに気づき、いそいそとウェットティッシュを持ってきて、キュッキュッと拭くのでした。
ついでに自分の顔もなんとなく拭いてみるのでした。イケメンにはなりませんでした。
サウナはたのしい。