見出し画像

祖父からもらったMDの謎

自分が高校生だった頃、世の中はインターネットが一般に普及しつつある過渡期で、当時の首相の小泉純一郎さんの口癖の「IT革命」という言葉を進次郎さんのパパがその頃よく言っていました。進次郎構文っていざ自分で作ろうとすると結構むずかしいですね。

しかしながら、学生がケータイを持つなんてけしからんという風潮もなんとなくあり、我が高校では、確か所有が禁止されていたと思います。自分も持っていませんでした。なので、ネット環境はまるでなし。

だからテレビや雑誌が主な情報の収集源で、流行りの曲はそこから知るわけです。

B'zもミスチルもGLAYもL'Arc~en~Cielも椎名林檎さんもKinKi Kidsも最初に見たのはテレビの向こうだし、La'cryma ChristiやPIERROTやBlüeやPlastic Treeはフールズメイトやヴィシャスなどのヴィジュアル系専門誌を立ち読みして覚えました。  

そして、テレビで聴いたり雑誌でインタビューを読んだりして、気になったCDは脳内にアーティストとタイトルをインプット。

後日、自転車で市内のTSUTAYAを回り、CDを探してレンタルしては、カセットテープに録音して返却するのが毎週土曜日の習慣でした。

カセットテープはスーパーで88円で売られているものを買っていたのですが、たまに58円とかの破格のこともありました。時代はMDに移行しつつあって、カセットテープの需要が薄れて売れ残っていたのでしょう。

正直なところ自分も、カセットテープではなくMDが再生できるプレイヤーが欲しいと思い始めていました。MDなるものがいかなるものか見てみたい。触ってみたい。

そんなことを思いつつ訪れた夏休みのこと。

その年も盆の時期に祖父母の家に3泊4日ほど世話になりに行き、いつもどおりに帰りに小遣いをありがたくいただいたのですが、そのいつもの小遣いとともに、ケーブルの付いた四角い電子機器を手渡されました。

その電子機器には確かにSONYと書かれており、OPENと書かれている部分を押してパカッと開くと、中に四角いディスクが収められているのが確認できました。さらにそのディスクの表面には、確かにこう書かれていました。

Mini Disc。ミニディスク。

つまりそれは、略すとMD。ここ数ヶ月ほど憧れ焦がれていたMDが、唐突に自分の手の中に収められたのです。

誕生日は10月だし、クリスマスには早すぎるけど、神は我に褒美をお与えなすったのか?

ちなみに、祖父は晩年までケータイの通話以外の機能を使わなかった人だし、ずっと仮面ライダーとウルトラマンの区別がつかなかった人なので、決してガジェットに詳しいわけでも、ミーハーな老人だったわけでもありません。

どういう経路で入手したのかしばらく謎だったのですが、おそらくパチンコの景品だったのだと思います。

パチンコで勝ってもらってきたぬいぐるみやお菓子をくれることは、それ以前にもたまにあったので。しかし、MDプレイヤーとは驚いた。

家に帰り、さっそく電源を入れて、ディスクに収められた曲を聴いてみると、中華風のイントロ(というのかアレは?)に、「♪ヤパパーヤパパーイーシャンテン」という歌声が流れてきました。これは……。

アニメ『らんま1/2』のオープニング『じゃじゃ馬にさせないで』である。

冒頭の中国語から始まり、「はしゃぐ鯉は池の鯉」「胸の鯛は抱かれタイ」とダジャレで繋ぎ、「らんまらんまで日が暮れる」と主人公の名前を強引に形容詞化したセンテンスが延々と続く、その不可思議な歌詞はインパクト大。

そこから20曲目くらいまでは『らんま1/2』関連の楽曲が続いたのですが、25曲目あたりで、なんかかわいい声の女性が「あいあいあいあいあいたいのに」「あえあえあえあえない」と連呼するサビが印象的な、明らかにらんまたちの世界観ではない曲が流れ出しました。

これ、なんのアニメの曲だ?今ならそういう時にはすかさずネットで検索できるのですが、当時はそんなことはできません。

その後の数年間ずっと、祖父からもらったMDに収録されていた謎の曲として、自分の中に残っていました。

そして大学に入り、アニメオタクの友達とカラオケに行ったある夜のこと。まだ覚えたての酒に酔い痴れていると、同級生の女子があの歌をうたっているではないですか。一瞬、酔っ払って幻覚を見ているのかと思った。

あの歌は、堀江由衣さんという声優の『Love Destiny』という曲で、アニメ『シスター・プリンセス』のオープニングテーマである……ということを、翌日になって知ることになります。

その頃にはもう、自分はパソコンという文明の利器を持っており、ADSLという最先端技術によってインターネットを扱えるようになっていたのです。

『シスター・プリンセス』とは、12人の妹たちがお兄ちゃんのためにいっぱい頑張ってくれる(要約)内容のアニメで、略称シスプリ。

電撃G'sマガジンという雑誌の企画で、12人の可愛い妹たちの中から推しを見つけて応援しようという、実に萌えに萌えまくれる内容なのですが、そんな大きいお兄ちゃんがメイン視聴層のアニメの主題歌を、祖父はどのようにして知ったのか、それはネットが発達した現在でもなお、さっぱりわかりません。

そして、そのMDプレイヤーも壊れてしまいました。でも今はすぐにネットで『Love Destiny』が聴ける。これが最後の真実。


サウナはたのしい。