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はじめてのキャバクラ

「私のおさけ遍歴」にて、自分の12歳から26歳ごろまでの飲酒体験を書きました。

20代の頃は、基本的には酒は店で呑むものであるという感覚があり、スーパーやコンビニでバイトしていたので、ビールやチューハイの新製品をガンガン品出ししていたにも拘わらず、それを買って帰ることはあまりありませんでした。

酒とはハレの日のもの、外で呑むもの、他人と呑むもの、という認識がまだ当時はあったので、ひとり呑みという発想がなかったのです。

X JAPANのPATAさんは、酒豪でありながら、家では全く呑まれないそうですが、今となってはそれに強く憧れる。

今じゃもう、家呑みという自覚すらない。いちおう今年に入ってからは、1日に角ハイボールふた缶まで、と決めてはいるんですがね……。たまに破るときもあるけど。

そんな自分も、かつては外呑みがほとんどでした。

当時よく友達と遊んだ京都の木屋町には、無限の居酒屋が建ち並び、森見登美彦さんの小説『夜は短し歩けよ乙女』のごとく、アルコールを体内に注入しては、夜の京都の街を彷徨っておりました。

乙女ちゃんみたいな可憐な和風美人とお近づきになれることは、ついぞありませんでしたが。

その代わりに誰とお近づきになるのかといえば、無料案内所という場所の中にいる、黒い服を着たおにいさんたちです。

無料案内所というのは大抵は歓楽街の中にあるのですが、どピンクとかど真っ黒とか、とにかくまあ、用もないのにふらっと立ち寄ろうとはならんでしょうなあ、という味わいです。

で、その中に数名いらっしゃるおにいさんたちは、黒い服を着ていて、なかなかに厳ついですが、別に反社の方ではありません(上層部の方々はもしかしたら……ゲフンゲフン)。

そして、たいへん親切です。割引してくれる居酒屋やバーを教えてくれたりします。

しかし、当時は23~24歳の我々、合法的に飲酒ができるようになってからは数年が経過しており、夜の飲食店や居酒屋にはそれなりに足を運んでいて、先輩に連れられてバーに行ったこともある。

となれば、もうひとつ上の刺激。めくるめく、素敵なおねえさまと仲良くなれる(かもしれない)せかい。

そう、キャバレークラブである。

フランス語の「キャバレー」と、英語の「クラブ」を組み合わせた和製外来語であり、一般的には「キャバクラ」と称される。

1980年半ばに登場した、比較的あたらしい風俗営業形態であり、基本的にはひとりの来客に対して、ひとり、あるいは複数の女性が隣に着き、好意的な接客をしてくれる。簡単にいえば、知らない女性と合法的にイチャイチャできる。

知らない女性とイチャイチャしたい。その頃に頭の中にあったのは、それだけであった。

最初は会社の上司に連れられて行ったものの、ビジネスで行くとお上の方々の顔を立てることに心血を注がねばならず、どうにもちゃんと楽しめなかったので、休日に友達とチャレンジしてみよう、という運びになったのです。

で、プライベートで入場料を払って店内に入れば、キャッキャウフフできたのかというと……。

できませんでした。

いや、ひとことに、できませんでした、と片付けてしまうのは違うな。実際に、同行した友達の何人かはキャッキャウフフに成功していたし、メアド(なつかしい響き……)をゲットしたとかいう人もいたし。

いや、ちゃんと上手いことキャバクラを使えば、おそらくきっとできたのでしょうけど、当時の自分には、それだけのコミュ力がなかった。

まず、自分をできるだけ大きく見せようとして、虚勢を張っていましたな。

キャバクラなんかそれなりに行き馴れていますよオーラを出そうと必死で、「このお店は他のところより~」などと述べてイキってみたり、知らない強いウイスキーを知っているフリしてガンガン呑んでみたり。

まあ、たぶんほとんどキャバ嬢の方々にはバレていたみたいで、「初めてじゃないんですか?」と何度か訊かれた。でもその頃には知らないウイスキーによって頭がバグってきていて、もうなんかあることないこと話してしまう。そして、びっくりするくらい後で何も覚えていない。

何も覚えていないせいでこのテキストのネタにもできないのですが、きっととんでもねえイキりをかましまくっていたと思う。こわい。つらい。

結局、だんだんとそういうところでの仕来たりがわかってきて、会話が途切れないように、酒に呑まれないように、なによりキャバ嬢の方が不快に思うような言動をしないように……。

と、気を付けるようにすれば、最初のようなガチガチ感はなくなり、無難に制限時間を終えられるようになったのですが、これはこれで、何も残らなさすぎてつまらない。

もともと相手に合わせて会話をすることが苦手なのに、決して安いとはいえない料金を払って、それをするのがどうにも……。

だいたい、女の子と話すだけなら、ここじゃなくてもできるよな。喪男(当時のインターネットスラング)まっしぐらの私だが、それでもたまに会う女友達なら何人かはいるぞ。ていうか、そっちの方が楽しくね……?と、ほろ酔いの、まだ思考できる頭で考えるようになってしまった。

しかし、そうなると、キャバクラの意味が……。

そういえば無料案内所では、キャバクラの一種にセクキャバというものが存在するとおにいさんが言っていた。簡単にいえば、おさわりOKのキャバクラである。

そうか、今度はそれだ。そして私は再び、クソデカい煩悩をぶら下げて、夜の街で酔っぱらうのであった。まあ、セクキャバもセクキャバでなかなかしんどくて、途中で挫折しちゃいましたけど。

サウナはたのしい。