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私はサザエさんエンジョイ勢

この広大な世の中には、サザエさんガチ勢と呼ばれる人たちが存在します。

みんな大好きな『サザエさん』。なにせ、半世紀も続いている国民的作品である。単純にアニメの『サザエさん』を毎週のように視聴しているとか、原作の単行本を全巻読破したくらいのクラスタなら、たくさんいらっしゃるでしょう。しかし、サザエさんガチ勢はその先を行っている。

「花沢さんは原作には出てこない」などという小ネタを鉄板だと思っている自称サザエさん通は、ガチで危機感を持ったほうがいいと思う。エンディングのじゃんけんの勝率について真剣に考えたのいつ?磯野家の湯沸し器のモデルがどの型番か調査したのいつ?ないでしょそういう経験。弱いって。

8000話を超えるすべてのサブタイトルを記録している人や、X(旧Twitter)に毎週日曜日の夜に必ず長文の感想を書いていた人(数年前に辞められてしまったが)も確認しているが、先日は「タイコさん推し」という、今までに考えたことのなかった観点でのサザエ研究家の存在を観測した。

毎週のように『サザエさん』を視聴して、タイコさんが登場するかどうかを調査する。『サザエさん』は毎週3話のエピソードが放送されるわけだが、その3話のうちすべてにタイコさんが出てくる回は「パーフェクトタイコ」なのだそうだ。

パーフェクトタイコ。じわじわ来るパワーワードだ。約3年に一度の確率で訪れるらしい。パーフェクトノリスケを調査しているノリスケ推しの人とか、パーフェクト裏のおじいちゃんを調査している裏のおじいちゃん推しの人とかもいるのだろうか。

いるのだろうな。『クレヨンしんちゃん』のひろしの部下の川口に特化したサイトが現実に存在するわけだし。あえてリンクを貼ったりはしませんが、「クレヨンしんちゃん 川口」で検索するとすぐに出てくるので、一度のぞいてみてほしい。手作り感のあふれるサイト構築もさることながら、いろんな表情の川口を集めた「川口マーク」に、ただただならぬ川口への愛を感じる。川口の何が作者さんをここまでさせているのか。

確かに、作中ではちょっとマイナーな扱いを受けているキャラクターが自分の好みであること自体は、たまにあることだと思う。『魔法先生ネギま!』で自分がいちばん好きだったのは亜子ちゃんだったし、私の知り合いの某氏は『五等分の花嫁』の公式人気投票の結果に対して「二乃の可愛さが理解できないニワカが多すぎる」と憤っておられた。

一方で、最初はただのモブキャラだったのに人気があったためにメインキャラに昇格したまき絵ちゃんや、いちばんそういうのに疎そうだったのに中盤からの巻き返しムーブが凄かった○女(ネタバレになるので伏せ字)の例もあるので、今は目立たなくても、いつか陽の目を見る日が来る可能性もなくはない。

『名探偵コナン』の赤井秀一だって、実はだいぶ初期の時点で出ているのに、ちゃんと言及され始めたのは安室がやって来てからだしな。ストーリー漫画のコナンと1話完結もののサザエさんとではジャンルが違うが、いつからか堀川くんの狂気が注目され始めたのと同様に、タイコさんの時代が到来するかもしれない。

ここで、タイコさんの魅力はどのようなところなのかを考えてみる。参考資料として、公式ホームページのタイコさん紹介の項目を見てみよう。年齢は22歳とのこと。4大新卒生と同じくらいということで、想像していたよりもかなり若い。

サザエさんの放送が始まった1969年度の初婚の女性の平均年齢は24歳。時代を考えても、22歳で既婚で1歳半の子供がいるというのは早いような気がする。しかし、現在24歳で3歳の息子がいるサザエさんも、同じくらいの時期に子供を産んでいるので、このくらいが普通だったのかもしれない。

というか今はじめて気がついたが、タイコさんがサザエさんに対して敬語なのは、タイコさんのほうが年下だからか。旦那のノリスケさんはサザエさんのいとこに当たるので、血縁関係はないものの義理はあるという不思議な関係である。

しかし、配偶者のいとこにあんなに頻繁に会っていて、子供を家に預けるくらい仲が良いというのは珍しいのではなかろうか。たまたま家が近所だったからというのはあるかもしれんが、大抵の場合はもっとよそよそしくなるのではないかと思う。私は従姉の旦那に会ったことが一度もなかった(※詳細は省くけど離婚したのです)し、興味もなかった。

ノリスケさんが磯野家に平気で出入りしまくっているのも、冷静に見たらちょっと異様だ。私は従姉が結婚していた時期に従姉の家に行ったことは一度もない。行ったところでノリスケさんみたいに図々しい振る舞いはできないであろう。親戚にあんな人がいたらイヤだよ。

小さい子供と可愛い嫁さんが家で待っているにも関わらず、しょっちゅう親戚の家に寄り道して、ひとりで勝手に御馳走をいただくノリスケの何に惚れたのだろうか。

確か原作では、プロポーズの際に「結婚したら酒もタバコも辞める」と宣言していたはずだが、タバコはともかく酒は辞めておらず、しょっちゅう帰宅しようとするマスオくんを夜の街に誘おうとする。

良くも悪くも奔放で、たまに調子に乗りすぎて波平に磯野家を出禁にされたりする、そんな畜生なノリスケを愛せるタイコさんのメンタルは何気に強そうだ。単純にタイコさんがダメンズ好きだったという可能性もなくはないが。

それに、プライベートでは畜生とはいえ、20代半ばにして高名な小説家の担当編集者を任されているということは、実は仕事面ではめちゃくちゃ有能なのでは?とも思う。

ところで、高名な小説家こと伊佐坂先生の執筆されているジャンルは、恋愛小説なのだそうだ。意外だ。あの風貌からは、新撰組の時代小説とかを書かれていそうな印象を受けるのだが。コバルト文庫に伊佐坂先生の作品がラインナップされているかもしれないと思うと変な気持ちになる。

『あずきちゃん』の原作者があの方だと知った時のような気持ちになる。あの方が小学生の恋バナを……?みたいな。しかし、実際に若者の文化に寄り添い、巨大アイドルグループをいくつも成功させているのだから、理には適っているな。

ノリスケが遊びまくっているのも、いくつになっても親戚の家に遊びに行くのも、もしかしたら、出版業界の人間として、良質なジュブナイルを世に送り出すべく、少年の心を忘れないためなのかもしれない。伊佐坂先生が毎日のように原稿をほっぽり出して囲碁ばかり打っているのも……。

サザエさんワールドは深い。というか、考え出すと止まらん。じゃんけんの勝率とか湯沸し器について研究したくなる気持ちはすごくよくわか……、まあまあわか……、うーん、……少しはわかるような気がする。

私ごときはサザエさんガチ勢を名乗れませんが、サザエさんエンジョイ勢として頑張っていきます。何を?

追伸。私は五月ちゃん推しです。

サウナはたのしい。