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鬼塚さんを見て金髪になろうとしたらヒカルさんになった思い出

世の中の大学生は、ばっさりと2つに分けられる。

大学デビューに成功する人間と、大学デビューに失敗する人間である。

幸いにして、わたしは前者であった。入学式の朝にさっそく道に迷い、正面門ではなく裏門から入ったがために警備員さんとまず交友を深めることができたし、2日目には食堂の注文のやり方がよくわからずにずっと止まっていたところを、どうやら見かねたらしい見知らぬ大人っぽい人に「ここはセルフばい」と博多弁っぽい口調でご教唆いただき、先輩との交流も測れました。

こんなふうに、愉快でうすらぼんやりとしたキャンパスライフを送り始めて、数週間と少しが経った頃。

ブラブラと構内を彷徨っていると、鬼塚英吉さんを実写化したような、金髪でピアスをジャラジャラと付けた人が、ポケットを両手に突っ込んで、くわえタバコで歩いているのを見かけました(※少し後に所定場所以外の喫煙は禁止になりますが、この頃はまだゆるく、生徒のみならず教授もふつうに歩きタバコをやっていました)。

鬼塚英吉というのは漫画『GTO』および『湘南純愛組!』の主人公で、学生時代は不良だったがその後に中学校の先生となり、教師になっても金髪でピアスのチャラい風貌のままで暴れまくっていたグレートティーチャーです。趣味は教頭先生の愛車(クレスタ)を破壊すること。

かつてはドラマ化もされ、反町隆史さんやEXILEのAKIRAさんが鬼塚を演じましたが、その金髪ピアスジャラジャラの人は、自分の知る限りは誰よりも鬼塚でした。まあ反町さんはともかく、AKIRAさんが鬼塚になるのはその後かなり経ってからなので、時空が歪んでいるのですが。

どうせ時空が歪んでいるので後年の話をここですると、この鬼塚っぽい人は卒業式もスーツではなくネルシャツにジーパンというロックファッションで来ていて、なんだか貫き通していてかっこいいと思いました。

彼に憧れて……、というわけではないですが、自分も髪を染めてみればあんなふうに威風堂々とできるのではないかと思い立ち、でも自分のような日陰者がそんなことをしたらたちまち周囲から後ろ指を差され、通りすがる人すべてにクスクスと嗤われるのではないか、などと逡巡すること数ヶ月。

ジーンズショップ(といっても商業施設の中にあるローカルチェーン店で、主力商品は3枚1000円の安いTシャツ)でのアルバイトを始め、それなりに小遣いが貯まってきた初夏のある日、ついに決心して、大学の売店で毛染め用のカラー剤を買って、その日の夜に風呂場で開けてみました。セルフヘアカラーです。

で、結論からいえば、これが失敗しました。それまで順調といえば順調だった大学生活で、初めての挫折です。

白に近い金髪にするはずが、なぜかやたらとツヤツヤした金色になり、全体を染めるはずがなぜか前髪にばかり集中し、前だけ金髪、他は黒髪という、ユーチューバーのヒカルさんの亜種みたいな状態になっていました。

当時はまだヒカルさんは無名でしたし、ユーチューブそのものがまだ存在しません。また時空を歪めてしまった。

そこで染め直すとさらにおかしくなりそうで、しばらくそのまま放置していたのですが、まあ随分とツッコまれましたね。その中途半端な髪はなんだと。

これはそう遠くない将来にカリスマユーチューバーがやる髪の染め方であり、俺はおまえらの10年先を行っているんだと今ならドヤれるのですが、当時はもちろんそんな未来は予測できていないので、素直に美容院で他人に染めてもらわなかった自分を呪いました。

バイト先はカジュアルだったので、服装も髪型も特に厳しくはなく、むしろ少し目立つくらいのほうが好まれたのですが、当時はまだ人類には新しすぎたヒカルスタイルはまるで人気がなく、そこを辞める頃には完全に色が落ちて、やがて100%の黒髪に戻りました。

それ以降はなんだか空々しさを覚えるようになって、髪を染めることはなかったのですが、周囲になんと言われようとあのまま貫き通していれば、今ごろはカリスマで大金持ちになっていた……、とは思わないまでも、今となっては、もう一度やってみたいとも思う。

あえて老後になってからやってみるのもありかもしれない。白髪染めではなくブリーチしたい。まあ、その頃に髪があったらの話なのですけどね。抜け毛がけっこう多いので、たぶん予備軍ではある……。

あの鬼塚っぽい人、今はもう落ち着いているのだろうか。今でもシルバーアクセを付けていらっしゃるだろうか。

サウナはたのしい。