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放置車両に想いを馳せて

放置車両を見に行く、という、あまり他人に理解されない地味な趣味があります。

ナンバープレートが付いていない、タイヤがパンクしたまま、ライトが破損している、なぜこんなところに長年に亘って置いてあるのかさっぱりわからない。そんな、ボロボロに朽ちている車を見るのが好き。

好き、と書くとなんだか語弊があるのですが、この車は過去に誰に乗られて、元気に道路を走れていた頃はどんなところを旅して、どういう経緯でここで余生を過ごすことになったのだろうと、正解が絶対に出ないことを勝手に妄想しながら、いずれは単なる鉄の塊となってしまう彼らに侘び寂びを感じるのです。

草ヒロというジャンルがあって、畑や山などに放置された軽トラックやバンなどを撮影することを趣味とされている方もいて、そういうサイトもあります。

ただ、草ヒロの場合は、もう完全に乗り物としてのお役は全うし、物置小屋のようにされていたり、台風などによって転がったままだったり、事故で損壊したままだったりと、この先にどこかに引き取られたとしても廃車にされるしか運命のない車たちが対象です。

自分の嗜好はそれとは少し違います。まだ車の体は成しているし、匠の職人がレストアすればなんとか乗れそう、くらいのテイストの放置車両がいい。

彼らがゆっくりと熟成されていく様を、毎日ではなく、数ヶ月に一度くらいのペースで、まだあいついるのかな……など、と、ごくたまに生存確認に行くのが楽しみなのです。

楽しみ、というのもまたなんだか語弊がありますが、つまり、取り残された車たちの哀愁ただよう姿を陰から見守りたいのです。今までも見守ってきました。

梅田の堂山町のまんだらけ付近の路地に置いてあった初代スズキアルト、摂津市の歩道沿いにずっといたシトロエンDS、立命館大学の茨木キャンバスができる前にあの近くに捨てられていたっぽい日産キューブ……。

いずれもどこかのタイミングで誰かに連れ去られてしまい、今ではもう会うことができません。

ずーっと近所の駐車場にいたあいつもしかりで、先日ひさしぶりに顔を見ようかと辺りを歩いてみたところ、駐車場そのものが更地になっていました。なんということだ……。

この近くには、博多マンションというかなり歴史を感じさせるアパートがあって、なぜ北大阪にあるのに博多という名前なのかさっぱりわからん謎の建物にも風情を感じるのですが、その奥の月極駐車場でいつも寂しそうに佇んでいたのが、シトロエン2CV。

ルパン三世の映画『カリオストロの城』で、カリオストロ伯爵から逃げるクラリスが運転していた、あの角ばったタマゴみたいな(?)形状のフランス車です。

幌がヨレヨレになって内装が丸見え、タイヤは前後輪とも地面に埋まってしまい、座席にはカビが生えている。しかしながら、ライトや窓は健在だし、部品を替えればきっと乗れる。さらにナンバープレートは付いたままで、名古屋で登録された車両らしい。

分類番号は72。分類番号というのはナンバーの右上に書かれている数字で、現在は3桁ですが、1998年までは2桁でした。

さらに調べていくと、かつては三輪乗用車で使われていた7ナンバーが四輪にも割り振られるようになったのは1984年以降であり、77→78→79と繰り上がっていったものの数年後に使い果たしてしまったとのこと。

そして、今度は71から順番にナンバーが充てがわれたそうです。なぜ最初から71からにしなかったのかは勉強不足でよくわかりませんが、そこから解析していくと、72という分類番号のこの2CVは意外と高年式だったのではあるまいか。

1990年に生産が終わっているので、ほとんどモデル末期の個体、1980年代後半のものである可能性が高い。

あるいはワンオーナーではなく、どこかのタイミングで譲渡が行われ、それに伴いナンバーを変更したのかもしれない。

妙に遠い地域のナンバーの車が無造作に置いてある場合は、盗難車である確率が高い、というような話も聞いたことがありますが、もしかしたらそうなのかも。

それこそ、クラリスのように追手から逃げていった結果、道中の大山崎のインターチェンジ付近でフィアット500に乗った怪盗に出会い、やがて心を盗まれ、車はテキトーな駐車場に捨ててそのまま駆け落ち……となるはずが、怪盗は「バカなこと言うんじゃないよ」と言いながらフィアット500で名古屋に帰ったので、クラリスのようになるはずだった女は名古屋での名前を捨て、大阪のおばちゃんとして第2の人生を……みたいな展開があったのかもしれない。知らんけど。

何はともあれ、もうあの2CVには出会えず、謎が永遠に謎になってしまったということに一抹の寂しさを感じます。

自分が名探偵の孫でIQが180なら、あるいは自分が推理小説家と有名女優を親に持つ高校生探偵なら、きっとすべてが見通せていたのに……。

去年に愛媛に行った時に見かけたナンバーのないS13シルビアは、あれから半年が経った今もいるかなあ。あと、長野に行った時に見かけた、なぜここに?みたいなところにあった車種不明のフォーミュラカーはどうなったのだろうか。

別に探偵になろうとは思わないけど、世の放置車両たちの行く末を推理できる能力がほしい。まあ、放置車両そのものが昔に比べて減少しているのもあって、要らない能力ではあるのでしょうが……。

サウナはたのしい。