ケチの遺伝子【忘れ去られた自己肯定感】 5
美鈴5
それから毎朝、掃除をした。
感謝の気持ちで掃除をした。
そう、辞めさせられずに済んでいるのだ。
もう、入社して五年が経った。
私は安心だったらしく、
奥さんから見張られるようなことはすぐに無くなった。
私みたいなのが、社長さんにみそめられるわけがないと、分かっていたので、奥さんから見張られなくなって正直、ホッとした。
入社2日目のあの日以降、社長さんに褒められることはほとんどなかった。
杉本さんには「ありがとう」と言っても、私は言われない。
【まぁしょうがないよね、社長さんは忙しいから……】
そう自分に言ってやり過ごしていた。
でも、またいつか褒められるかもしれない、「ありがとう」と言ってもらえるかもしれないと淡い期待を持ち、毎日毎日一生懸命掃除をした。
そんな掃除が行き届いた状況が当たり前になっていて、少しでも汚れていると奥さんの機嫌が悪くなった。
機嫌が悪くなると無視されたり、意地悪をされたりする。
無視は慣れっこなので諦めている。
でも結局、会社の備品など、ほとんどのことを把握しているのは私になっているので、私に聞かずには進まない。だから、すぐに聞いてきて無視が終わるっと言ったサイクルがずっと続いていた。
奥さんはこんな事があるたびに、私に意地悪をする。
伝票を捨てたり、雨の中買い物に行かせたり、もう少しまともな服を着ろとか、化粧をしないなんて、社会人として失格だとか……しつこくいびられる。
杉本さんも最初は助けようとしてくれたけど、こうなるとどうしようもないので、終わるまでじっと耐えるしかなかった。
このいびりにさえ耐えたら、辞めさせられなくて済む、そう思うと、我慢できる。
でも最近のいびりは、ますますエスカレートしている気がして、困っていた。
ある日の午後、お客さんが来るということで準備をしていた。
来たのは税理士さんだった。
この税理士さんは新しい税理士さんで、最近よく事務所に来る。
社長さんと仲が良く、頻繁に飲みに行ったりゴルフに行ったりしているようだった。
最近よく来るのは、仲が良いからだと思っていた。
応接室にお茶を二人分出した時、社長さんから、奥さんと甥っ子の誠二さんを呼ぶように言われた。
「あのー、すみません……奥さん、社長が呼んでいます」
「えっ?なに?」と聞き返されたので、もう一度言った。
「あのー、社長が呼んでいます」
「えっ!私?なに??私?」と聞かれたので
「あのー、誠二さんも一緒にって……」っと答えると
「えっ?」っと驚いて、
「えっ?なんでなんで?!」っと奥さんは慌てていたが、私にそれを悟られたくなかったのか、背筋をシュッと伸ばしプイッと翻った。
誠二さんに私の言葉は聞こえていなかったようで、奥さんが
「ねぇ、誠二、社長が呼んでるって」と声をかけると、誠二さんはびっくりして
「えっ!なに?なんで?」と奥さんと同じことを言ったので、少し面白かった。
その後、かなり動揺しながら二人は、応接室に入っていった。
つづく
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