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怪談百物語#94 二人目
一、二、三、四。
バーベルを軽快に挙げていく。
ウォームアップは軽い重量で十回、そこから徐々に重量を上げて回数を下げて本番に繋げる。
これがいつものトレーニング内容だ。
本番では何とか一回挙がるかどうか、ギリギリの重量を扱う。
ベンチプレスは危険なトレーニングだ。
重い重量を挙げる途中で気絶する、これはよくある事故だ。
セーフティーバーがあればそれより下には落ちてこない。
いつものトレーニングジムならあるんだが、ここにはそれがない。
ジムに着いて知ったんだが今日は休業日だったらしい。
近所の事務を調べて、飛び入りでここに来た。
いつもと違う使い心地にあまり集中できていない気がする。
それでも何かあった時に助けてくれる補助の人がいてくれれば気兼ねなくトレーニングできたはず。
ところがこのジム、今日は俺一人の貸し切り状態。
安全な範囲内でできるようにトレーニング内容を変更しよう。
悔しいけれど、安全第一。
事故が起きればジムにも迷惑がかかる。
トレーニング内容を低重量で高回数に変更して、余裕をもってトレーニングを続けた。
段々と挙がらなくなってくる。
次でラストにしよう、バーベルの重量を足してベンチに寝転ぶ。
これなら五回は挙がるはず。
両手の幅はいつも通り。
しっかりと握りこんで挙げる。
一、二、三。
三回目ですこし粘らないと挙がらない。
やはり集中できていないのだろうか。
挙げた状態で一息入れる。
よし、四。
大丈夫、あと一回は挙がる。
ご
バーベルを胸元まで降ろすと、急にずしりとした感触が大胸筋に入る。
さっきよりも明らかに重い。
挙がらない。
落としても良いから、左右どちらかにバーベルをずらさないと。
傾けようと体をよじるがバーベルは動かない。
どうして。
逃げようとして全力でバーベルを挙げる。
動かない、頭に血液が昇っていくのがわかる。
目の前がチカチカしだした。
まずい、気絶する。
死を目前にして諦めが浮かぶ。
どうにか助かる道は。
無い。
「大丈夫ですか!一応救急車呼んで!お兄さん、意識はある!?」
ああ、はい。
朦朧として思い出せない。
確かいつもと違うジムに来て、ベンチプレスをしていたはず。
重量を落として安全に気を付けて。
ここは?
ジムだ。
「すみません。あの、助かりました。」
上半身をゆっくりと起こす。
どうやら、体ごとだがバーベルを横に落とせたらしい。
助かった。
人間やればできるもんだな。
「良かった。意識もあるようですし、救急車はいらないですね。でも一応、病院行かれた方が良いですよ。」
筋骨隆々のお兄さんが心配してくれた。
「ありがとうございます。」
感謝を述べると一転、お兄さんの表情が怖くなる。
「無理のあるトレーニングは体に悪いですよ。特に人がいない時は余裕を持ったトレーニングを心がけてくださいね。」
自分より大きな人に言われると説得力がある。
言い訳するようだが、私も気を付けていたつもりだ。
「いや、人がいないんでいつもより軽くしたんです。でも何故か急に重くなって。挙がらないし、横にも動かないし。」
――一体何が起きたかわからないんです。
そう続けようとした時に思い出した。
白くなる意識の中、バーベルを握る二本の腕が見えた。
左右にずれないようしっかりと支えながら、上からグイグイと押しつける腕のことを。
「以前このベンチで一人亡くなってるんです。お兄さんみたいに、一人きりの時に無理したらしいですよ。本当に気を付けてくださいね。」
腕は、その亡くなられた方のだろうか
それとも
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