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怪談百物語#5 見たい

夜景を見に三人で車に乗った。
目的地までは結構遠い道のり。
崖の上から見る町並みはどれほど綺麗だろうか。
そんな話をしながら、車通りの少ない道を進んでいく。

「お、ラッキー。今日は空いてるじゃん。」
「俺たちで夜景独占できるね。」
「でも夜でしょ。怖くない?」

駐車場についてみんな車から降りる。
ここから見える夜景が最高なんだ。
俺たちが子どものころから、いや、親世代から人気のスポット。
此処から見下ろす光。
人生の光、なんて。

「夜景を見ると詩的になるね。」
「それが好きで見に来てるんだよな。」

気の置けない友人達とみる夜景。
明かりは下だけじゃなく空にも浮かぶ。
雄大な星空の下、自分たちの小ささを否応なく感じさせられる。

二人が空を見上げる中、僕の視界は黒い影が動くのを捉えた。
駐車場の隅。
僕たちが立っている崖、すぐそばに人のような影が見える。
明かり一つない駐車場なのにくっきりとみえるそれ。
向こうもこちらに気付いたようだ。

「なあ、そろそろ車に戻らないか?寒くなってきたよ。」
最近寒くなってきたからちょうどいい言い訳浮かんだ。
「もう少しいいだろ。車ん中エアコンつけてていいからさ、先に戻ってなよ。」
「んー、俺ももうちょっと詩的な夜をすごしとくよ。」


ふざけたような言葉も今は気にならなかった。
この場を離れたい、その思いでいっぱいだった。

ーーバタン

車のドアを勢いよく閉める。
駐車場に響いただろう音も二人には届かないようで、車のライトに照らされる姿は微動だにしなかった。

このライトであの影を照らせればと思いながら後部座席に移る。
車の運転なんてわからない。変なところをさわらないようにしないと。
ライトは諦めた。
それにもう照らそうとしても、仕方がない。
車内に二人きり。
ついてきた。

必死に見えないふりをする。
良く言うでしょ、見えてるってバレると良くないって。
素知らぬふりをしてスマホを取り出す。
一人は心細い、色んな人にLINEを送った

「夜景見に来たんだけど、何か変なのがいる。」
「マジで!写真撮っといて!」
「送ってー。」
「幽霊?気をつけなよ。」
「見たい見たい。」

勝手なことを。
こっちの気も知らないで。

スマホの画面に影が落ちる。
LINEに文字が入力されていく。
打ってもないのに。

「見えてるじゃん。」

その時気づいたんだ。
それ、知り合いだったんだよね。
そいつ生きてるんだけどさ、事故で入院してて今も意識不明なんだよね。
本当はいつも、そいつを含めて四人で夜景を見に行っていたんだ。
お見舞いに行く度に病室で三人集まって話してたんだよな。

「夜景、また見に行こうぜ。」って。


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